第9章 ホダシ
自分の手元には荒っぽい解決策の手札しか持ち得ていない夾は黙って咲に任せることにした。
だが、咲の"お話"は凄まじかった。
お手本のような綺麗な笑顔で詰め寄り、有無を言わさぬ圧で彼女達から"お話"の内容を洗いざらい全て吐き出させていた。
ある意味彼女達にとっては、咲よりも夾の方が良かったのかもしれない。
ひまりと透の居場所と指導室の鍵を渡してもらってから咲は一瞬だけ無表情になる。
その時の死を覚悟したような女子生徒三人の顔に、僅かにだが不憫に思えた。
実際、そう思ったのはそれと同時に"お灸"を据えられた姿を見たからかもしれない。
「…あいつ等、この世の終わりみたいな顔してフラフラ帰ってったけど…あれいけんのか?」
「…一応…加減はしてあるわ…3日程頭痛が続く程度ね…」
生徒指導室へと向かいながら夾が聴くと、不敵な笑みを浮かべる咲。
これ以上は聞かない方が身の為だと夾は口を歪ませながら向かう先へ意識を向けることにした。
「……は?」
「へ?」
透からの頓狂な声にひまりも同じような声で返す。
そんなに愕然とされる程おかしい質問をしただろうか、と数回瞬きをした。
すると、透も同じように数回瞬きを繰り返す。
「えっと…それは…私が夾君に…という…ことでしょうか…?」
透は質問の意味を整理するように、内容の再確認をする。
「そういう…こと…だね」とひまりも困惑気味に返すと、透は首がもぎ取れてしまいそうな程に左右に振り始めた。
「な、な、ないです!ありえませんです!絶対!神に誓ってありえませんっ!!」
あまりの完全拒否っぷりに、逆にそれはそれで夾が可哀想な気も…と思いつつ首を振り続ける透の肩を持って落ち着かせる。
「ちょっと一回落ち着い」
ガチャガチャッ
扉から聞こえた鍵を差し込んで捻る音にハッと二人で期待の眼差しを向ける。
誰か来てくれた!これでやっと出られる!!!と二人が立ち上がるよりも先に開かれるドア。
暗闇の中に差し込んできた光に目が眩み、薄く開いた目で見えたのは鮮やかなオレンジと黒。
夾の登場は予想通りっちゃ予想通りだったが、咲が居たことに驚き、名を呼ぼうとしたところでガッと掴まれた肩の衝撃で咲の名を口にする事はなかった。