第9章 ホダシ
「お前アイツらの場所特定出来ねぇのかよ?」
「電波をGPSみたいな…外道な物と一緒にしないでくれる…?こっちよ」
「……」
いやいや大差無ェだろ。というツッコミは何とか飲み込んだ。
まずは担任に聞こうと職員室へ出向いたが、担任は既に帰った後だった。
もう一度下駄箱を確認してみると、透の靴はやっぱりそのまま。
二人を探す手掛かりは咲の電波にかかっていた。
「はぁー…アイツらどこ行っ」
「中で漏らしてたりしてたらどうするー?」
「それマジウケんだけど!」
「バズり案件じゃーんっ」
三年生の下駄箱にもたれかかって話す女三人。
夾はケラケラと下品に笑う彼女達のことが気になって立ち止まった。
咲も同じく不穏な空気を読み取ったようで、夾の隣で彼女達の会話に耳を傾ける。
「これである程度は大人しくなるんじゃん?」
「さすがに漏らし画像出回っちゃ退学でもするかもね?」
「二人纏めていけたのはラッキーだったよねー。やっと由希の周りが落ち着くねー」
今度は本当にゲラゲラと下品に笑い始めた。
あー…。コイツ等…。
全てを悟った夾がギッと奥歯を噛み締めて音を鳴らす。
額には青筋を立て、眼光を鋭くさせ、握った拳は白く色を変えていた。
女相手に乱暴な事はしたくないが、内容が内容だ。
少々手荒なことになるかもしれない。
「おい…おま」
「詳しくそのお話…聞かせて頂けます…?」
夾よりも先に動いたのは黒いオーラを全身に纏い、貼り付けたような笑顔を作る電波女子。
その物々しい雰囲気に夾は自身の怒りを忘れてギョッと目を見開いた。
それは三人の女子生徒も同じ。
「で…電波女っ」
「あら…知っていて下さったのね…嬉しい…」
ふふっと笑顔を崩さずに頰に軽く手を置いて首を傾ける。
そんな咲の態度と雰囲気に恐怖を覚えたのは女子生徒だけではなく夾もだった。
三人の女子生徒の内、二人は逃げよう後退るが一人は腰を抜かしたように座り込んだまま動けずにいた。
それを二人は見捨てずに、立たせようと必死に脇を持っている。
「な、なんでアンタ達…ッ」
「ふふっ…"お話"聞かせてくださる?」
笑顔と声音は穏やかだった。
まるで草原に吹く風のように。
黒いオーラさえ纏っていなければ、の話だった。