第9章 ホダシ
そうしてボーッとネチネチと女みたいな粘っこいことをどれくらい考えていただろう?
カチ、カチと嫌に耳に響き続けるソレに目を向ける。
30分は経っている。
「どこで油売ってやがんだ…アイツは…」
窓の外に目をやれば鮮やかな明るさは無くなり、灰色を混ぜたような暗い空。
日の入りがかなり早くなった。
ひまりが草摩に戻ってきた頃に比べるとそれは一目瞭然。
時間が経つのが早い。
時計の秒針が止まらず動き続けている事も、わざわざその現実を見せつけられているような気がして目を逸らした。
はぁ…とため息を吐いて立ち上がる。
口から出てしまったのは無意識だった。
「ったく…」
ガシガシと頭を掻いて開いたままの扉に手をかけて出
「あら。…まだ油を売っていたの…草摩夾…」
「うおゎっ!?!?」
教室を出た瞬間にそこに立っていた微塵の気配も感じさせなかった咲に、夾は後ろに倒れそうな勢いで後ずさった。
「お、お前…まだ残ってたのかよ…」
バクバクと鳴り響く心臓部分を鷲掴みにしながら問い掛けると、咲も同じように自身の胸に手を当てる。
彼女の場合は驚きからそうしたのではなく、癖のものだろう。
「……時間外学習…と将来設計…」
「補習と進路指導な」
呆れた半眼で咲にツッコミを入れると「そんなことはどうだっていいのよ…」と、まるでこちらが無駄話を持ち出したかのように軽く睨み付けられ、夾は口端をピクピクとさせていた。
「透君…見なかった?」
「あ?見てねーけど…もう帰ったんじゃねーの?」
「まだ…靴があったのよ…こんな遅くまでおかしいと思って……教室にいるのかと思ったんだけど…違ったようね………この役立たず」
「おい。最後の言葉ばっちり聞こえてっからな」
小声で言った咲の声は夾の耳にしっかり届いていた。
確実にワザとだろう。
咲は素知らぬ顔をして「何だか…変ね…」と考えるように唇に指を当てる。
「何がだよ?」
「透君の電波を…感じるの。ひまりの電波も一緒に…」
「お前が心底怖ぇーわ俺。じゃあ二人でダベってんじゃねーの?」
「透君はお爺さんが心配するからって、いつも遅くまでは残らないわ。この時間にはいつも帰宅してる筈よ」
真剣な目で見る咲の顔と言葉で、夾は急に嫌な予感がして眉を顰めた。