第9章 ホダシ
余りにも唐突で予想外な質問に、動揺で瞬きの回数が異常に増える。
「え、いや、は?え?どうしたの…?急…に?」
自覚したのもつい最近の話で。
恋を終わらせたのもつい最近の話で。
なぜ透がそんな突拍子もない質問を投げかけてきたのか理解出来なかった。
質問を質問で返された透は目を泳がせて口をぱくぱくとさせながら返す言葉を探している。
「お、女の勘というやつでして!!」
「…へー」
透の慌てっぷりに少し冷静になれたひまりは半眼で彼女を茶化すようにジト目を向ける。
そうすればまた「わ、私にも女の勘というものがきっと備わっておりまして…っ」と更にアタフタする。
その姿にプッと吹き出した。
「ふふっ、違うよ。特別な人とかじゃない。大切だよ…でもそれは由希達も一緒」
この様子だと、透君も夾が好きなんだろうか。
両想いか。
いいねぇ青春!
二人には幸せになって欲しいと思っていたから、こんな素敵な展開はない。
うんうん、こんなに素敵な事はない。
こんな素敵なことはないんだ。
「そう…ですか…」
透が安心するように…気持ちがバレないように言葉にしたが、肝心の透は何とも言えない複雑な表情で目線を下に向けていた。
これまた予想外の反応に困惑する。
自分の想い人を想っているかもしれない女が、そうではない。と断言したのだ。ここは安堵するとか、喜ぶ所ではないのだろうか…と。
足元に視線を向けていた透が勢いよく顔をあげ、視線をひまりに向ければ長い柔らかな髪が擽るように肩を撫でた。
透は繋いでいる手にギュッと力を込め、何かを言おうと唇を開く…が、音を出す寸前で眉尻を下げて唇を閉じた。
「…透君?」
「恋とは…全ての方が笑顔になれる…という訳では…ないのですね…」
短いため息と下がった眉、瞳は切なげに伏せられた。
あれ?私、夾のこと好きじゃないよって言ったよね?あれ?伝わってない?もしかして私が夾を好きって勘違いしてる?いや、勘違いじゃないけど折り合いはつけたから嘘ではないし…
透君は勘違いしていて一歩踏み出すことが出来ないんだろうか。
ひまりが顔を覗き込むとそれに気付いた透と目線が合う。
「恋してるの?夾に」
「……は?」
透は目を白黒とさせて、頓狂な声を上げて瞬きを数回繰り返した。