第9章 ホダシ
壁沿いにラックが並べられ、その全てに極厚のファイルがキッチリと入れられている。
周りには段ボールが積み重ねられており、長い間触られることが無かったのかそこだけ埃が被っていた。
そして中央には、腰辺りまである机がひとつ。
狭い部屋ではないが、沢山の資料に囲まれた部屋は圧迫感があった。
「大丈夫ですか?ひまりさん?」
ここに閉じ込められてから1時間程経っただろうか。
時間が経つにつれて部屋の中には闇が広がっていく。
密室、暗闇。
ひまりの苦手とする空間を徐々に作り上げていた。
壁に背を預け膝を抱えて座っている。
じっとりと濡れた背中が余裕の無さを表していた。
ただ、この空間に独りではないということが唯一の救いだ。
「へーき。ありがとう。透君今日はバイトお休みなの?」
「はい。今日はお休みです。しかし、このままだとお爺さんにご心配をお掛けしてしまいますね…」
困りました…と拳を口に当てる透の顔がわずかに霞む。
暗さのせいか、恐怖のせいか。
ふぅーっと天井を仰ぎながら長く息を吐き出すと、透が不審そうに眉を潜めてひまりの顔にそっと触れた。
ひんやりとした空間には似合わない湿った感触にギョッと目を見開く。
「ひまりさん、やはり体調がすぐれないのではないですか?」
「あー…。ちょっとだけね…暗いの苦手なの。でも透君がいるから大丈夫」
心配そうにひまりの顔を覗き込む透に、ニッと笑って見せたがその眉が元の形に戻る事はない。
——— おツライ時は笑わないで下さい。…必要として、必要とされることを望んでいるから…
あぁ、そうか。こういう時は素直に頼るものなのかな。
ひまりは自身の頬に置かれた透の手を取ってギュッと握る。
「手、繋いでてもらってもいい?透君が隣にいてくれるって分かるだけで安心するから」
「もちろんです…っ」
透は心配そうに、でも何処か嬉しそうにひまりの手を両手で握った。
ちゃんとここにいますよ。とひまりの肩に頭を乗せて。
やっぱり暖かい。
体温のように感じるものではないけれど、懐に飛び込みたくなるような透の暖かさが心地良くて目を閉じる。
スッと透が息を吸ったことに視線をチラリと向けた。
「…ひまりさんにとって夾君は特別な方ですか?」