第9章 ホダシ
とりあえず今の状況を整理しよう。
予想外の出来事に思考は低下しているが考えなければならない。
ココは進路指導室の奥にある進路資料室。
日直だった私に先生は雑務を頼みやすかったのだろう。
日誌を持って職員室へ行けば担任から段ボールを渡された。
この資料を進路資料室に持っていって欲しい、と。
先生はちょっと急用があって…。資料室の机の上にポンッと置いとくだけで構わないから頼むな!なんて笑顔で鍵を渡され頼まれれば断れるはずもない。
生憎今日はスーパーへ買い物に行く予定も無かったので時間はある。
二つ返事で了承した自分に、せめて一緒に帰る予定の夾に行き先だけでも伝えてから行けと助言したい。
小学生の頃に習ったホウレンソウを怠ったが故に命取りになるとは思わなかった。
あれ?そういえばホウレンソウって何の略だっけ?
放課後、恋愛、倉庫
いやいや、それは少女漫画のイベント。
じゃなくて。
夏に比べれば日が落ちるのが早くなった放課後は既に薄暗い。
ここに入る前に電気をつけておけば良かった。
これも後悔。
電気はあるが、そのスイッチは進路指導室にある。
扉を隔てた向こう。
あともうひとつの後悔は…。
「どういたしましょう…どなたか気付いてくださいますでしょうか…」
透君を巻き込んでしまっていること。
下校しようとしていた透君とたまたま会い、お手伝いしますよーと言ってもらったのに甘えたことが間違いだった。
資料室に入って1分も経たないうちに扉が勝手に閉まり、鍵も閉められた。
進路指導室の机に鍵を置いてしまったのも失敗。
鍵が閉まった直後に女子生徒が数人ケラケラと笑う声が聞こえたから、この閉じ込めは故意に行われたんだと思う。
思うっていうか確定。
狙われたのが私なら、透君はただ巻き込まれただけだ。
っていうか、今日ずっと跡をつけてたってこと?
暇人か、由希親衛隊は。
声を上げてはみたものの、放課後で生徒が少ないことと、窓もなく部屋の奥にあるココからは望みが薄い。
そう、今私たちは"詰んだ"状態だった。
「ごめん透君ー…」
「いえいえ、ひまりさんが謝ることではありませんよ!」
「私が帰ってこない事を、夾が不審に思って探してくれると思うからそれ待ってよう…」
肩を落としてひまりが床に座ると、透もその横に腰を下ろした。