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ALIVE【果物籠】

第8章 彼岸花



ほら。ちゃんと見て。現実を。

闇が晴れた所で、誰も僕たちに気付かないだろ?

呪いが解けた所でお前には僕しかいない。
離れられる訳がない。


「君は他の十二支に比べて劣っているからね、いつも心配してやってるんだよ?君の場合、その劣化の部分を取り戻せないだろうからね。君を必要としてやるのはこの世で僕ぐらいじゃない?」


得意げに身振り手振りをつけて話す慊人の一歩後ろを紅野は歩いていた。
ただ無表情で、特に相槌を打つこともせずに着いていく。

明けた空は自分にはあまりにも綺麗で、澄んだ空気ですら"重い"と感じてしまう。


「紅野はあの欠陥品に似ている所があるからね。自分の事をよく知っておかなきゃいけないよ。役割とか、価値観と…か…」


慊人の言葉が詰まり始めて、紅野は慊人に目線をやる。
神社へと続く石の階段の上の方を見つめたまま時が止まったように動きを止めていた。
サァーっと柔らかい風と共に運ばれてきた音に紅野は目を見開く。


「え!ユズ塩たこ焼き!?美味しそう!それ!私それにする…ッ!」


ひまり…?なんで…?

今の情緒不安定な慊人に会わせる訳にはいかない。
だが…


「…どうして鼠二人が仲良く手なんか…つないでるの?」


慊人はもう気付いていた。
目を見開いて、穏やかだった空気を一瞬にしてピリつかせた。
仲良さげに手を繋いで階段を降りてくる二人。
向こうはこちらの存在に気付いてはいなかった。


「ねぇ紅野?あの女…ほんとに……目障りだと…思わない?」


あぁ、まずい。
そう思った時にはもう遅くて、慊人は階段の下で二人を見上げて睨み付けていた。

笑い合っていたひまりと由希も、慊人の姿を確認した瞬間に血の気が引いたように顔を歪ませて動きを止める。
ひまりは繋いだ手を振り払おうとしていたが、由希がそれを許さなかった。
ギュッと手を握ったまま慊人を見据えている。
焦ったようなひまりを後ろ手に隠すようにしている由希。

それが更に慊人の逆鱗に触れたのか、一気に目を吊り上げて固く拳を握っていた。

今更慊人の気を逸らすことなんてできない。

慊人を見据える由希の目は、挑戦的なそれで。

少しずつ何かが壊れてきているのに気付いたのは、きっと俺だけでは無かったと思う。
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