第8章 彼岸花
窓から見えたのはドス黒い雲のその先の淡い青。
晴れた所でまた真っ暗闇になる日が必ず来る。
世界は残酷だ。自分という存在に気付いてくれないのだから。
人もまた同じ。
僕が死んだ所で、その辺を歩いている人間が悲しむだろうか?
いや、悲しまない。
その他の人間にとっては、僕には価値がない。
"どうでもいい"
でも十二支は違う。
十二支にとっての僕は神だ。必ず必要で依存する対象だ。
それが"絆"だから。
でも…紅野は…。
僕たちの絆は永遠だ。変わらない。永遠に終わらない。
絶対、絶対に終わらせない。絶対…。
思い知って貰う。世の中は残酷だと。
「あの晴れた場所に行こうよ紅野」
晴れた場所に出向いた所で誰も僕らに気付かない。
興味を持たない。
無関心。
思い知って。
僕以外の人間には何も期待出来ないってこと。
折角あーやが来るのにぃー。と面白くなさそうに口を尖らせた紫呉を無視してひまりと由希はレインブーツを履き、傘を持って玄関を出た。
普通こんな雨の日に出掛けますぅ?と背後で未だに文句を垂れる紫呉に由希は容赦なく扉を叩き閉めた。
青とピンクの傘が開いて並ぶ。
先ほどの豪雨から大雨程度には変わったが、傘を叩く音は耳によく響いた。
由希の耳に届くように「じゃあしゅっぱーつ!」と声を張ったひまりは、レインブーツという最強装備のお陰で、所々に出来ている水溜りを気にすることなく歩み始める。
由希もクスッと笑いながら、先を行く彼女と同じように躊躇することなく水溜りに足を踏み入れながら歩み始めた。
いつもは避けて通るそれに堂々と踏み込めている事が、
今、この足で自ら明けた場所へ出向いていることが、
少しだけ誇らしくて、少しだけ胸を張った。
「晴れてる場所ってどの辺りかなー?神社のとこぐらいかな?」
「その辺りっぽいね。ついでにお詣りでもする?」
弱くなり始めた雨のおかげで、音にかき消される心配が無くなった二人は会話をし始めた。
「あ!それいいね!由希何かお願いするの?」
「ひまりが太りますように」
「え、何か嫌なんですけど。その言い方」
明けた場所で出会うのは、希望か。それとも絶望か。
傘に当たる音が聞こえなくなり、空を見上げる。
淡く透き通るような青が顔を覗かせていた。