第2章 おかえり
ひまりは部屋に着くと、ありがとうと言って手を離した後に、ベッドに座ると持っていたペットボトルの水を一口飲んでローテーブルに置いた。
体はまだ怠そうだが、呼吸は安定しているようで、安心した。
「夏風邪か?顔真っ赤にして。」
「んーん。…軽い熱中症…自業自得なの。」
「熱中症って…何してたんだよ」
一纏めにした髪をほどきながら経緯を恥ずかしそうに話し終えた後に、だから自業自得なの。と締め括る。
「…お前バカだろ」
「おっしゃる通りです。はい。」
「水分取らねェでこの炎天下の中歩き回るとか、どうなるか分かんだろ普通」
「ぐうの音も出ません」
耳を垂らして落ち込む犬のようにしょんぼりするひまりに、思わず吹き出してしまう。
「ちょっ!笑わないでよ!オレンジ頭!鬼畜猫!!」
「はいはい。わかった。悪かった。そんな怒んなって」
謝罪の言葉を述べたところで、まだ笑いを抑えきれずにいる夾に唇を尖らせて拗ねたひまりはベッドにふて寝して夾とは反対の方を向いた。
「何か食えそうなもんあるか?」
「…いらない。食欲ない。」
「…アイスは?」
「……………いる」
未だに拗ねたままなのにアイスに釣られるひまりにまた吹き出しそうになるのを堪える。
「どんなアイスだよ」
「イガグリ頭でTシャツ半パンの、やたら顔がデカい少年が描かれた氷の棒アイス。…ソーダ味」
ちらりと顔だけを向けて事細かに説明をするが、夾の口角が上がってるのを見るとまたプイっと向こうを向いた。
「……ありがとう」
「どーいたしまして。…寝てろよ」
振り返ろうとしないその背中を見てから部屋を出た。
…アイスと…ゼリーでも買ってくるか。
ドアを閉めて軽く伸びをしていると階段を登ってくる音が聞こえた。
夾の姿を確認した途端に、不快感を露わにしたように眉間に濃く皺を寄せる。
「…ひまりは?」
「部屋」
必要最低限の返事をすると由希の横を通り過ぎようとしたが、立ち止まった。
由希になら…アイツは頼るんだろうか。
「発作」
「え?」
「発作起こしてたんだよ。アイツ」
そう伝えるとそのまま階段を降りて行く。
それを聞いた由希は血相を変えてひまりの部屋へと急いだ。