第2章 おかえり
誰かが階段を登ってくる音が聞こえたから、ひまりが帰ってきたのかと部屋を出るとそこにうずくまるひまり。
華奢な体を縮こませて肩で息をしているその姿に焦った。
急いで駆け寄ろうとした時、ふと昔同じようなことがあったときのことを思い出す。
苦しそうにうずくまって、"発作"を起こしたひまりのことを。
あの後はとりに、命に関わるものじゃないから落ち着け。周りが焦れば焦るほど、本人がパニックになって発作が酷くなる。と教えられた。
焦る気持ちを必死に抑えていると、長く息を吐き出すようにしている彼女を見て、何とか自分で落ち着かせようとしてるんだろうな。と思い、待つことにした。
2、3分経った所で壁に手をついて立ち上がろうとするから腕を引っ張って立たせてやる。
顔にも口調にも焦りが出ないように細心の注意を払った。
「…寝てんのかと思ったけど。何?調子悪ィの?お前」
驚いた表情でこちらを見上げる彼女の顔は赤くなっていて、風邪で熱でも出て調子悪くなったのか…と考える。
いつもと変わらない夾の言動にホッとしているように見えた。
まだ整ってない息でいつもと変わらない態度を取ろうとするひまり。
"普通に接すること"を望むひまりの意思を尊重して、夾もいつも通り接するように努める。
こんな状況でも普通にしようと…笑おうとするひまりを見て苛立ってしまい思わず、笑うな。と言ってしまう。
真正面から見ているとまた下手くそな顔で笑う気がして、少し震えているその手をとって顔を見ないようにして部屋に向かった。
俺が見てるとコイツは無理して笑う。
出来ればそれはさせたくなかった。
こんな時くらい、ツライって言やいいのに。
苦しい、助けてって頼りゃいいのに。
ゆっくり歩くとまた苦しそうにしだすからその場で止まる。
これが正解なのか、声をかけてやった方が正解なのかは分からないけど。
ただ、苦しみが襲ってきた瞬間に握っていた手を開いて離そうとするから…
俺がひまりにとって頼れる存在じゃないんだろうな。と結論付けて自嘲した。
何も言わずに待っていると1人で呼吸を整えようと頑張るように細く長く息を吐き出すその行動に、
やっぱり。ひまりは頼らない方を選択した。と落胆した。