第8章 彼岸花
この一週間、必死に考えた。
私の要求を通す方法。
まずは賭けを受けない可能性を提示する。
慊人は私が夾の為に自己犠牲を惜しまないと思っているはず。
だから賭けの内容も、私にはリスクしかない"夾を解放する為だけ"の条件だった。
勝とうが負けようが"欠陥品を幽閉する事"だけは変えたくなかった慊人の心境は何が何でも私を十二支から遠ざけたいんだろうな…と。
そして賭けを受けた時点で"夾の幽閉時期を伸ばす"っていう、賭け事としては異例の有利な条件にも慊人の必死さが伺えた。
一度草摩から抜け出した事のある私を、この賭けを枷に幽閉まで逃げないようにしておきたい。
そんな私が受けない可能性を提示した上に、自己犠牲を惜しまないと踏んでいたのに「勝利条件は私の幽閉を無しに」と言えば夾の幽閉に関してのことなど簡単に通るだろうと思った。
その代わり、リスクが上がることも想定内。
私を早く確実に幽閉したいんだろうなって仮定してたから、そのリスクは"幽閉の時期を早める"ことだと思っていた…。
まさかそんな条件を出してくるとは思っていなかった…。
「全てを…差し出せって…そんな…っ。それに…禁忌の牢って…本当に存在するの…?」
動揺したひまりの瞳が揺れたことに、慊人は苛立ったように彼女の髪と左耳を同時に引っ張りあげた。
ファーストピアスも一緒に掴まれているようで、鋭い痛みが走る。
「それだけ傲慢な条件だってこと、分からない?図々しいんだよ。…禁忌の牢はあるよ。50年程使われていないけどね。この草摩本家を建てた際に、草摩の人間がもしも罪を犯した場合に入れられる"牢屋"。草摩内で起きた犯罪が世間にバレないように…その犯人を入れておく為の窓が一つしかなく電気も備わっていない小さな部屋」
見下す慊人の瞳が笑ったように細められた。
動悸が激しくなる。
牢屋に入れられるの?
残りの人生…ずっと…?
「そっか…禁忌の牢のことは僕を含め数人しか知らないもんね。本家の最奥に建てられてるし…みんな噂を知ってるだけで本当に存在してるとは思ってないんだね」
クスクスと笑い肩を揺らす慊人。
嫌だ…そんなの…。
全てを奪われて、牢屋行き…?
こんな…こんな残酷なことって…ない…。
左耳の痛みを感じながらひまりの瞳には涙が浮かんだ。