第8章 彼岸花
ブラックが降臨しているのか、そうでないのか。
口調はいつも通りだが、その瞳は鋭く光っていて判断が付かなかった。
「由希の話、聞く限り…夾の態度、中途半端。ピアスあげたり…思わせぶりなことしといて何ソレって思う…正直。中途半端なことするなら、最初から近付くな…ってこと」
その言葉がまるで自分に向けられているような気がして、由希は胸ぐらを掴んでいた手を離した。
乱れたシャツを直すことなく由希に視線を送り続ける潑春に、由希は自身の突発的な感情任せの行為にいたたまれなくなって片手で目を覆う。
「悪い…つい、カッとなった…。合ってるよ…春の言ってること。中途半端だ。アイツも…俺も」
「…優しいんだよ、由希は」
「違う…弱いんだ。傷付くことを恐れて…見ないフリをしてただけだ」
力なく椅子に座って窓の外を眺めた。
薄暗くなった空からほんの僅かな雨が降り始めている。
葉にあたっても揺らすことの出来ない、力無い中途半端な雨が自分に似ている気がした。
潑春は立ち上がり、由希と同じように窓の外を眺める。
葉の裏で雨宿りをしている季節外れの蝶は、優しい雨のお陰で振り落とされることなく羽を休ませることが出来ていた。
「その弱さに…その優しさに救われる存在も、確かにいる」
潑春の言葉に頬を緩ませた。
優しいのはどっちなんだか。
何となく言葉に出すのは恥ずかしくて飲み込んだ。
「そのひまり…さっき教室にいなかったけど…すぐ帰ったの?」
「あぁ、今日は薬局に買い物に行くから一緒に帰れないって…」
「薬局…ひとりで…買い物……生理用ひ」
「敢えて口に出すな」
キッと潑春を睨みつけると、いつもの無表情で外に視線を向けたままだった。
「ひまりに用があったのか?」と由希が問いかけるとゆっくりと首を縦に振る。
「リンが…ひまりに会うこと、承諾してくれた」
「会ったのか?!リンに!」
「うん…ひまりに会ってくれなきゃ数日以内にひまりの処女奪うって言ったら…殺されかけたけど…了承してくれた」
「お前は全く……って…え?」
由希が呆れたように頭を抱えた後、何かに気付いて目を見開いて潑春を見た。
「まさかとは、思ったけど…こっちも確信。否定されたけど間違いない」
由希は更に大きく目を見開いた。