第8章 彼岸花
「それなら…願ったり叶ったり…ってやつ」
「……春も勘付いてたんだ」
放課後。
特に用事はなかったが名簿の整理でもしようか、と由希が生徒会室で仕事をしていると、以前来た時のように「ゆんゆーん」と言いながら扉を開けた潑春は、まるで自室かのように椅子に座ってスマホゲームをしていた。
「確信は…なかったけど…。まぁ、こんな顔見せられちゃ…ね」
潑春はスマホを操作して、とある画面を由希に見せる。
そこには、切なげに夾を見つめるひまりが映し出されていた。
「オイ、何当たり前のように盗撮写真見せてんだ」
「大丈夫…由希のもちゃんとある」
「消せ。いますぐ消せ」
額に青筋を立てた由希がスマホを奪い取ろうとしたが、ヒョイとかわされポケットの中へと収められてしまった。
「訴えられても知らないからな」
「ひまりが俺を、選んでくれたら…問題ない」
「…そういうことじゃないだろ」
一瞬眉根を寄せて、ため息を吐く。
さっきの画面に映っていたひまりの顔が脳裏に焼き付いて苛立っていた所に、潑春の発言。
由希の苛立ちは募っていた。
「ひまりの感情がどうあれ、夾と本田さん…くっついてくれるなら…万々歳」
潑春の言葉に、由希は自分の中で何かが破裂したような、溢れ出たような感覚を覚えて気がつけば潑春の胸ぐらを掴んでいた。
そんな由希に潑春は顔色ひとつ変えずに椅子に座ったまま見上げている。
「何が…何がひまりの感情がどうあれだよ!?ひまりが傷付いても良いみたいな言い方…なんでそんな言い方出来んだよ!?」
胸ぐらを掴む手は震えていた。
ひまりが傷付いた姿を見たくない。
それと同時に誰かの物になるのは耐えられないのも事実。
由希は自分が本当に何を望んでいるのか分からなかった。
自分の中の天使と悪魔がずっと囁き合っているような。
ひまりを1番に考えたい自分と、我を通したい自分が混ざり合ったような濁った感情がさらに苛立ちを増幅させていた。
「…じゃあ聞くけど。中途半端な奴に奪われて耐えられる?俺なら中途半端なことしてひまりを傷付けない。夾みたいに…猫憑きの運命を背負ってる訳でもない。"俺"ならひまりの傍にいてずっと支えていける。もしも今回の事で傷ついたとしても」