第8章 彼岸花
透はひまりの話を黙って聞き続けた。
輪の中に入れない中途半端な存在だということ。
母親のことも。
幽閉のことや、慊人との賭けのことは話さなかったが。
時に優しく微笑み、時に眉尻を下げながら。
最後まで横槍を入れることなく聞き終えてくれた。
「…ごめん、泣かせるつもりじゃ…無かったんだけど…」
「………っ」
僅かに目尻に涙を溜めていた透に少し罪悪感を感じていた。
他人に自然と自己投影してしまうであろう彼女は、ひまりの身の上話に深く心を痛めているように思えた。
もう一度ひまりが謝ろうとした瞬間に、透はひまりの体をギュッと抱き締める。
「え!と、透…君?」
「ひまりさんはっ…ひまりさんは間違って産まれた存在なんかじゃありません!それに…お母様がどう仰ろうと、私はひまりさんのお母様に感謝し続けます。ひまりさんを産んで下さってありがとうございますと感謝します!」
その言葉に目を見開いた。
ただ、聞いてくれるだけで良かった。
うんうん、と相槌を打ってくれるだけで。
それなのに…
「おツライ時は笑わない下さい。ひとりで立ち上がろうとしないで下さい。ツライんだよって…助けてって言ったっていいんです。人は産まれもってに助けが無いと生きられない生き物だから…必要として、必要とされることを望んでいるから…」
あぁ…もうほんとに…。
ひまりは抱きしめられながら、暖かく染み渡っていく言葉達にゆっくりと目を閉じた。
「私はひまりさんが大好きです。こんなことあり得ませんが…もしも、世の中がひまりさんを必要としなくなったとしても、私はひまりさんを望み続けます。ワガママだと言われても、自分勝手だと言われても必要だと胸を張って言います。だからひまりさんは、誇り高く生きてくださいっ!決して間違った存在等とは思わないでくださいっ」
不安定な多勢の人間よりも、たったひとりでも必要としてくれる人間。
透君はそうなんだ。
こうやって受け入れてくれて包み込んでくれる人なんだ。
"敵わないなぁ…"
そんな言葉が浮かんだ。
それと同時に自身の気持ちがスッと型に嵌るような感覚を覚えた。