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ALIVE【果物籠】

第8章 彼岸花


跳ねる心臓を落ち着かせながら、こういう時、以前までの自分ならどういう態度を取っていただろうかと模索する。
1秒程で出たその答えは、肉じゃがを取り上げられた事に怒り、ジットリと夾を睨みつけることだった。


「そんなこと言って!自分が肉じゃが食べたいだけなんじゃないのー?」

「はぁー?まだ鍋いっぱいに残ってんのにわざわざお前から取り上げるかっつーの」


ここでひまりは言葉に詰まった。
動揺していたから、次の返しが出来なかったのだ。
その沈黙に「ンだよ?」と夾は困惑の表情を見せる。


うまく…。
上手くやらなきゃダメなのに。
こんなので動揺してる場合じゃないのに…。

早く次の言葉を。と焦れば焦るほどに喉の奥が封鎖されていくようで表情すらも強張り始める。


「あ、あの!ひまりさん!」


そんなひまりに透が助け舟を出した。
名前を呼ばれ、透に視線を向けると分かりやすく必死さが出ている彼女に全身が綻ぶようだった。


「よろしければ!この後、お部屋を見させて頂けませんか?以前、私が使わせて頂いてましたお部屋はひまりさんがお使いになられていると伺いましてっ…その、よければ…」


アタフタと理由付けをしているような透に、じんわりと胸の内が熱くなり始める。

もう…ほんと透君は…。


「ふふっ。プチ女子会だね!いいよいいよ部屋行こう!」


ひまりはご馳走様と手を合わせて空になった食器を手に立ちあがる。
その際「明日も食べるんだから、全部食べたら怒るからねーっ!」と透のお陰で夾に対していつもの調子に戻れていた。

由希と紫呉はその様子を理解しているように微笑んでいたが、夾だけはよく分からないと困惑しながら「そんなに食えねぇよ」とひまりから奪いとった肉じゃがを口に放り込んでいた。

透もご馳走様でした。と手を合わせ、食器を流しに持って行き洗い物をしようとした所でひまりが静止をかける。


「置いてて!後で私がやっとくし!いこいこー」


え、でも…と戸惑う透の手を強引に引っ張り居間を出て行く彼女達の背に「ごゆっくりー」と紫呉がニッコリと笑いながら手を振る。

訳が分からないと思いつつも、ひまりが嬉しそうに笑っていたことに夾は僅かに口角を上げていた。
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