第8章 彼岸花
透が作る料理は、やはり手が込んでいて丁寧で。
どこか懐かしさを感じるような暖かいものだった。
「いやぁ、透君のご飯久々に食べたけどやっぱり美味しいねぇ」
「ほんとに!凄い美味しいっ!いっぱい食べれそう!!」
「そう言って頂けて光栄です!ですがひまりさん、あまり無理はなさらないでくださいね?」
透は注いだお茶をひまりに渡しながら、食の進みが早い彼女を心配そうに見つめながら自身も食事をし始めた。
「本田さん、お祖父さんの所の生活はどう?」
「はい!とても良くしていただいておりますよ!修学旅行のお金も出してくださったり…本当に感謝してもしきれません」
透の身の上話は少し聞いていた。
母親を亡くし、住む場所が無かった透は今は彼女の父方のお祖父さんの所で住んでいる…と。
「そう、なら良かった」
「ここに一緒に住んだっていいんだよー?なんなら僕のお嫁さんとか…」
バシャッ
「ごめん紫呉。手が滑って」
紫呉のセクハラ発言を止めるように、由希がコップの中のお茶を顔面に向けてぶち撒ける。
アタフタと焦った透がタオルを持ってきて紫呉に手渡し、ひまりは苦笑し、夾は呆れたようにため息を吐いていた。
「夾君、お口に合いませんでしたか?」
「あ?ちげぇよ。ソイツのアホさ加減に呆れてただけだ」
「あはは…そうだったのですね」
大きな物を背負っているのに、それを感じさせない笑顔や、他人を一番に考える優しさ。物の怪憑きという事実を知っても変わらない態度に、それを一切他人に口外しない強さ。
知り合ってからまだ間もないにも関わらず、ひまりは本田透という人間が大好きだった。
それなのに…。
ひまりは透と夾を見ていられず食事に集中した。
いつもなら絶対にしない、お代わりまでして。
嫌だった。自分の汚い気持ちが吐露しそうで。
「オイッ!」
二杯目の肉じゃがを口に運ぼうとした瞬間に掴まれた手首にひまりは目を見張る。
そして自分の手首を掴む手に息を呑んだ。
その手には見慣れた数珠が付いていたから。
「急に食い過ぎだろ。そろそろ辞めとけ」
「な、なんでよ。いいじゃん食欲あるんだから」
「胃おかしくなんぞ。もう食うな」
そう言ってひまりの目の前にある肉じゃがのお皿を取り上げた。