第8章 彼岸花
「何?王子は急にどうしたんだよ?」
「アイツを太らせんだとよ」
ありさが問いかけると、気怠げそうに胡座をかいた夾がお弁当をかき込みながら答えた。
ただいまお昼休憩中。
いつもよりも少し多めなひまりのお弁当。
ひまりがそれを残そうとしているのを、由希が黒い笑顔で圧をかけていた。
「まぁ確かにひまり、ガッリガリよな。食え食えー」
「し、しかし…無理強いは良くないやも…」
「焼肉弁当…美味しい…」
ひまりは唯一味方をしてくれている透に救いを求めようとするが、「ひまり?」という由希の言葉に阻止されてしまう。
「初回からスパルタじゃない!?夾も由希に何とか言ってよ!」
「それぐらい食えなくてどーすんだよ。食え」
「薄情者!?!?!」
薄情者をキッと睨みつけるが、どこ吹く風とスルーされてしまう。
ひまりはまだ3分の1程残ったままのお弁当を手にしたままガックリと肩を落としていた。
「ひまりさん、何処か具合でも悪いのですか?確かに以前よりもお食事の量が減っているような…」
「違う違う!ちょっと食欲が落ちてるだけっていうか…。自分で作った物ってあんまり食欲沸かないっていうか…」
ウーンと顎を曲げた人差し指と親指で持ちながら悩む姿に、透はハッとして目を輝かせ始める。
嬉々とした透の姿にありさが「お?どした?透ー?」と声をかけると「いい事を思いつきました!」とひまりの両手を握った。
「よろしければ、本日の夕食を作りに行かせては頂けませんでしょうか?ひまりさんがお召し上がりになりたい物を作らせて頂きます!」
その提案に由希と夾も驚いたように目をパチパチとさせて透を見ている。
「いやいや、悪いよそんなの!透君、バイトとかで忙しいでしょ?」
「いいえ!今日はお休みなのです!料理は好きですし、ダメでしょうか…?」
「でも…」
「いいんじゃない?」
急な申し出に戸惑うひまりの横から由希が話に入ってくる。
「本田さんの料理美味しいし、ひまりも自分の作った物じゃ食欲沸かないんだろ?甘えさせてもらおうよ」
ニッコリ笑う由希に、ひまりと透は2人して目をキラキラさせ始めた。