第8章 彼岸花
膝に手を置き、燈路と視線を合わせるようにする。
僅かに俯いて前髪で見えない表情に顔を覗き込もうとした所で、燈路は意を決したようにひまりを見上げた。
ガラッ
その瞬間にタイミング悪く開く玄関。
スーツの肩にある滴を払いながら怒ったように眉を顰めているはとりが立っていた。
「お前ら…施錠って言葉知ってるか?」
どうやら鍵が開きっぱなしになっていた事にお怒りだったようで、靴を脱いで居間へ向かうと家主である紫呉を説教し始めていた。
はとりの訪問によって遮られてしまったそれを聞こうと燈路に向き直り「さっきの…」と声をかけたが、気が逸れてしまった事で話す気を無くしたのか、燈路はひまりに背を向けてトイレへと行ってしまった。
燈路の話の内容を気になっていたが結局その後も聞くことは出来ず、はとりと杞紗と燈路を由希と紫呉と一緒に玄関で見送る事になった。
「んじゃ、はーさん。さっちゃんとひー君をよろしくねー」
「ひまりお姉…ちゃん…また…遊びに来てもいい?」
両手を胸の前で組んで不安げに上目遣いをする杞紗を抱き締めたい気持ちを抑えながら「〜〜ッッ!」と声にならない声で勢いよく首を縦に振る。
すると杞紗は「嬉しい」と可憐に笑うものだからひまりはヨロけながら由希の肩に手を置き、体重を預けて頭を抱えた。
呆れ果てた顔のはとりと燈路にも別れを告げ、紫呉が部屋に戻った所で、未だに肩に手を置いているひまりに由希が黒い笑顔を向ける。
「ひまり、ちょっと洗面所行こうか?」
「は?なんで?」
その笑顔に怖気付きながらも眉根を寄せるひまりの腕を、強引に引っ張って洗面所の扉を開けた。
立て掛けていた体重計を床に置き、爽やかな笑顔で「乗って」と言い出す由希に目を見開いて「は?!」と驚きの声を上げる。
「乙女の体重を見ようとか何!?急に!?」
「じゃあ俺は外に出て見ないようにするから乗って」
笑顔を崩さずに首を傾ける由希に、身を乗り出して反論を始めたのだが…。
「いやいや、まず女子高生に体重計れとかおかしいから!由希、トチ狂ったんじゃ」
「乗れ」
「あ、はい」
威圧的なその態度と言葉に、折れたのはひまりだった。