第8章 彼岸花
『ンなもん知るかモゲギャァア!!』
『ダメだモゲ太!既に奴は精神的に殺されている!悪人相手でもオーバーキルはご法度だ!!』
キッチンから由希と顔を引きつらせながらテレビを眺める。
「あれ…子ども向け…?内容が違う意味でグロくない?」
「はは…色々な世代に人気みたいだよ…?生徒会の後輩の女の子も確か好きだったような…」
モゲ太の大きな人形は一部ではプレミアがついている程だという情報をつけ足した由希に、ひまりは「まぁ…確かに見ちゃうけど…」と悪人のその後から目を離せないでいた。
「…この流れで話逸らせようとか思ってるだろ」
「あ、バレた?」
悪戯な笑顔を浮かべて洗い物を再開するひまりに、由希は肩を竦めてため息を吐いた。
「ちょーっと夏の疲れが出てて食欲落ちてるだけだよーだからほんと気にしないで」
「とにかく…御飯時以外でも食べれる時に食べるようにして。ぶっ倒れて迷惑掛けるの嫌だろ?」
優しくも厳しい言葉に「肝に銘じときます…。ありがとう」と眉尻を下げて微笑んだ。
地面を無数に叩く音が聞こえる。
雨はまだ降り続いているようだった。
「今、はーさんが車でさっちゃんとひー君のお迎え来てくれてるみたいよー?」
電話を切って、居間に戻って来た紫呉がニッコリと笑って杞紗と燈路の隣に腰を下ろした。
「それなら良かった良かった。に、しても!燈路がお兄ちゃんになるなんてビックリだよねーっ」
DVD観賞後に杞紗が別荘に来れなかった理由を教えてくれた。
直前で燈路のお母さんの妊娠が分かり、おっちょこちょいな母が心配で取りやめたのだ…と。
燈路ってば優しいーっとひまりが含んだ笑いをすると燈路は鬱陶しそうに睨みつける。
「…ひまりうるさい」
照れ隠しをするような姿にひまりと杞紗は顔を見合わせてフフッと笑う。
燈路は深くため息を吐いてトイレの場所教えてくれない?とひまりに腕を組みながら案内を頼んだ。
二つ返事で承諾し、居間を出てみんなから少し離れた所で燈路が立ち止まる。
「…?燈路どうしたの?」
「アンタさ…本当に…」
手を握り締め、言いづらそうに言葉を紡ぎ出す燈路にひまりは首を傾げた。