第8章 彼岸花
「反抗期の子を頭ごなしに叱った所で反発心が生まれるだけだよー。受け入れてあげなきゃ。ほら、ひまりみたいに」
紫呉がニッコリと笑いながらひまりを指差す。
また何か悶える出来事が発生したのか、親指と人差し指で目頭を押さえ、僅かに口角を上げたまま天井に顔を向けている。
そして「あー…おじさんもう萌え萌えだよ。もう死んじゃいそうだよ。死因は尊死だ…」と理解不能なことを言い出しているひまりに、由希は冷静に性別と年齢が間違っていること。尊死なんて死因は無いことを突っ込んでいた。
ひまりの言動に完全に引いている燈路は、そこから嫌味を口に出すことを辞めて黙々とカレーを食べ始めている。
いや…確かに丸く収めたっちゃあ収めたけどよ…と夾は口元を歪めていたが、紫呉は下を向いて小刻みに肩を揺らしていた。
夕食を終え、夾は雨の影響で体が怠いと食後すぐに部屋へと上がり、紫呉は書斎、ひまりと由希は洗い物、杞紗と燈路は持って来ていた【モゲ太】というアニメのDVDを鑑賞している。
「由希もゆっくりしてていいよー。あと私やっとくし」
「ううん、手伝わせて?ご飯の準備は全部任せちゃってるし、これくらい…ね?」
ありがとう、じゃあお願い。と洗い終わった食器を由希に渡していく。
由希はその食器を受け取りながら懸念していたことをひまりに話し始めた。
「ひまり、本当に食べる量減ったんじゃない?」
『モゲモゲェェエエエェエゴァアアァアアッッ!!!』
「いや、ほんとにカレーが美味しくて作ってる途中に食べすぎたんだって」
『ダメだモゲ太!噛み砕く前にアイツの話を聞いてやらないと!!!』
「…今日だけの話じゃないんだけど?」
ジロリとひまりを横目で見るが、彼女は洗い物に集中しているふりをして由希と目を合わそうとはしなかった。
『モゲグギャアァア!?!?』
「由希の勘違いだってー」
「ひまり何かあったんじゃ…」
『小遣いを減らされぇえ!家に居れば邪魔だと掃除機でまるでゴミのようにつつかれぇえ!俺様の大切なゴルフクラブを妻にマルカリで勝手に出品されぇえ』
「ごめん待って。アレめちゃくちゃ気になるんだけど」
先程から聞こえ続けている声に、ひまりは乾いた笑いをしながらテレビを指さした。