第8章 彼岸花
夕食の準備中に帰ってきた紫呉も一緒に、長方形の大きなテーブルを6人で囲んだ。
燈路はひまりの前に置かれているカレーライスを怪訝な顔で見ている。
自分や杞紗のカレー皿よりもひと回り小さいそれに盛り付けられたカレーは、小さな子どもが食べるほどの量に思えた。
余りにも少ないそれに夾と由希も眉を寄せて見ている。
「ひまりのカレーは何でオレと杞紗のより少ない訳?そんなにガリガリな癖にまだ痩せようとか思ってんの?」
「ちょっとつまみ食いをね!しすぎてね!」
「…カレーをつまみ食い…?」
「まぁまぁいいじゃないの、ひー君。温かいうちに食べましょう!いただきまーす!」
強引に食事を始めた紫呉を不服そうな顔で睨みながらも、お腹は空いていたのだろう。
燈路はカレーにがっつき、杞紗もお行儀良く手を合わせるとスプーンを手に食べ始める。
ひまりの隣に座っていた夾が「もっと食えよ骸骨になんぞ」と言ったのに対し、つまみ食いしたからだとまた言い訳しているのを眉を潜めたまま呆れて聞いていた。
由希は数日前からひまりの食事量が極端に減った気がしていて、心配そうに彼女を見ている。
「お姉ちゃん…カレー…美味しい…」
「ほんっっとうー?!ありがとう杞紗ーっ!まだまだあるからおかわりして…」
「市販のカレールーを使ってるんだから不味く作る方が至難の技ってやつじゃない?」
「た、確かに…ごもっともです…っ」
燈路の指摘にガクッと肩を落とすひまりの横で、夾は青筋を立てながら燈路の頬をつねる。
「なに?幼児虐待で訴えられたい訳?これも充分な暴力行為になるって分かってやってる訳??」
「うっせーよガキ。その減らず口二度と聞けなくしてやろうか?文句言うなら食うんじゃねぇよ今すぐ帰れ」
「あーヤダヤダ。正論を伝えただけなのに、あたかも自分が正しいみたいに暴力で捻じ伏せようとする大人って」
馬鹿にしたような目を向ける燈路に、更に立てていた青筋を深く刻み込んだ夾を宥め始めたのは紫呉だった。
「まぁまぁ夾君。ひー君は今反抗期真っ只中だからねー」
「だからって見逃せるもんと見逃せねーもんがあんだろーが」
燈路の頬から手を離し、カレーを口に放り込みながら苛立ったように眉を寄せていた。