第8章 彼岸花
燈路の睨みつけるような視線。
だが、デレ部分を知ってしまったひまりには効き目は無かった。
むしろそのツンな姿を愛でるように"馬鹿みたいに緩んだ顔"を燈路に向けている。
「その気持ち悪い顔やめてくれない?オレ達はお土産持って来たのにそっちは何も無い訳?修学旅行行ったんでしょ?」
燈路の言葉にひまりはハッとする。
杞紗と燈路の分のお土産は何も用意していなかった。
と、言うより、戻ってきてから会ってなかったので修学旅行のお土産を2人に買うという考えにすら及ばなかったのだ。
「ちょ、ちょっと待ってて!!」
慌てたように燈路に言うと自身の部屋へダッシュで行き、ダッシュで帰ってきたひまり。
その手には修学旅行の時に拾って、結局持って帰ってきてしまっていた中途半端に色を染めた紅葉が一枚持たれていた。
それを見て燈路は目を細めると「…なにこれ?」と不機嫌そうに紅葉を見つめる。
「修学旅行で拾ってきたの!ごめんっ!こんなのしか無いんだけどコレで…」
「こんな見飽きた葉っぱ一枚で俺たちが喜ぶとでも思ってる訳?ヤダヤダ、安易に考える大人って…」
「珍しい…綺麗だね…燈路ちゃん」
「仕方なく貰ってやるよ」
杞紗の言葉を聞いた瞬間に手のひら返した燈路に、ひまりはまた悶えた。
素直に喜んでくれる杞紗と、杞紗を優先するように瞬時に意見を変えた燈路。
どちらも愛おしくて堪らなかった。
「なんなのもう…尊い…」
今度は顔を全部手で隠し、天井を仰ぐ。
ありがとうひまりお姉ちゃん、と言う杞紗に対し燈路は「さっさと夕飯作ってくれない?」と生意気に腕を組んでフンッと子どもらしく分かりやすい反抗の態度を出していた。
「おっけーおっけー。すぐに作るよーっ!今日はね!カレーなんだよ!」
「なにそれ?子ども相手だとカレー作れば喜ぶとでも思ってる訳?巷で言われてるような迷信全部信じる訳?ホントやだね、楽観的にしか考えてない大人って。だいたいカレー…」
「私…カレー好きだよ。食べたかったの…」
「カレー早く作ってくれない?」
またまた悶えるひまり。
口を手で覆ったまま、「早く作るね…!」と溶けそうな表情のままキッチンへと向かった。