第8章 彼岸花
「待って、燈路?!杞紗!?え、あの子達今何歳になったの!?ってかいい、違う。今じゃない、それは今じゃない」
軽くパニックを起こすひまりを気にも留めずに消毒液を片付ける潑春と、ケラケラと笑い続ける紅葉。
由希が「ちょっと落ち着こ…」と声を掛けようとしたと同時にひまりは勢いよく立ち上がった。
「っしゃぁ!!由希!状況が変わった!買い物ついて来て!材料買い足さなきゃ!!家にあるのだけじゃ足りない!」
「そ、それは構わないけど…」
何故か急に受けて立つぞスタイルに変わったひまりを見て、笑っていた紅葉が「ほらねー?」と後ろで手を組んで可愛らしく首を傾けた。
そんな紅葉とボーッとしたままの潑春にクワッと見開いた目を向けたひまりが「春と紅葉も来る!?」と更に難易度を上げようとしていて、由希は力無く微笑んでいる。
「いや…俺、用事ある…」
「ボクもバターチキンカレー食べたかったけど、今日はヴァイオリンのお稽古があるんだーザンネン…ヒロとキサにヨロシクね!」
「そっか!了解!春、消毒ありがとう!!!由希!!行くよ!!急げ急げっ!」
「え、ちょっ」
展開の早さについて行けていない由希は、目を白黒とさせながらひまりに腕を引っ張られるがままに教室を出て行った。
「さすがひまりだねー。ハルは一緒に行くと思ったけどどっかいくの?」
「ん?…ライバルとの…直接対決の予感…的な?」
「ナニソレー?ライバルってユキかキョーじゃないの?」
「んー…そうだねー…」
潑春は曖昧な返事を返すと「帰ろ」と紅葉に促して歩き始めた。
「ところでさー」
「ん?」
スーパーまでの道のりをまるでジョギングをしているかのように走っていると、ひまりが由希の方を向いて難しい顔をする。
「バターチキンカレーってどうやって作るの?」
「…それ、俺に聞く?」
少しの沈黙の後、「ごめん、間違ってた」と真顔で答えたひまりに「せめてフォローしようよ」と由希が笑う。
結局、潑春がいないならバターチキンカレーにしなくてもいいのでは?と2人の意見が一致して、本日の夕食はスタンダードなカレー、ということになった。