第8章 彼岸花
「お前、ほんと目障り。本来産まれなかった筈の"不要な存在"が出しゃばらないでよ?化け物が人間の真似事するなって言ったよね?」
ひまりが溜まった涙を一筋頬に流すと、嫌悪感を表情に滲ませた後、ニヤリと口角を上げてひまりの耳元に顔を近付けた。
「いい事教えてやろうか?夾はね、高校を卒業したら幽閉だよ。お前と同じ…あと一年ちょっとで幽閉だ」
「え…?」
ひまりはこぼれ落ちそうなほどに目を見張った。
そこ知れぬ絶望感が押し寄せ、心臓が締め付けられたようだった。
「夾は僕と希望のない賭けをしてるんだよ。由希に勝つことが出来たら幽閉は無しにしてやるってね。でも、勝てなかったら高校を卒業した時点で幽閉だよって。ね?とんだ負け戦だと思わない?」
耳元で楽しそうにクスクスと笑う慊人の言葉に、ひまりは次々と溢れる涙で頬を濡らしていく。
夾が以前見せた、絶望を受け入れたように笑った顔が脳裏に浮かんでいた。
待って…。
そんなのって…そんなのってない…。
ダメだ…そんなの…
夾だけは…せめて…
慊人が掴んでいた髪を離すと、ひまりは腰を抜かしたように床にしゃがみ込んだ。
その目の前に慊人も膝をついて、穏やかに微笑んでいる。
「悲しい?愛する化け物にもう時間が無いって知って…絶望を感じてる?ほんと馬鹿だよね、ひまりは。そんな馬鹿なお前に僕が救いの手を伸ばしてやろうか?」
頬を伝う涙を拭ってやってからひまりの顎を持って、絶望で色を失った瞳と視線を交わらせる。
「僕と賭けをしない?お前にとってはリスクが高いから、この賭けを受けた時点で夾の幽閉を先代の猫憑きと同じ時期まで引き伸ばしてやるよ。そしてお前が賭けに勝てばあの化け物の幽閉を無くしてやってもいい」
受けた時点で夾の幽閉を引き延ばせる。
ひまりの瞳に色が戻った。
そして止まっていた思考が動き始める。
夾の運命を変えられるかも知れない。
もうあの諦めたような顔をさせなくて済むかもしれない…。
「賭けの…内容は?私にとってリスクが高いって…どういう、こと?」
緊張と恐怖で鳴り止まない心臓を落ち着かせるように胸の中心をギュッと掴みながら、希望を宿した瞳で慊人を真っ直ぐに見つめた。