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ALIVE【果物籠】

第8章 彼岸花


鋭い視線に見透かされているようで、身動きが取れない。
言葉を忘れたように声が何も出てこない。
早く否定しろと頭の中で警告音が鳴り響いているのに。

身動きひとつとらずに目を見開いたままのひまりに、慊人が窓枠から立ち上がるとゆっくりと近づいて来る。

ひまりの顔を覗き込むように顔を寄せれば、固まったままのひまりは瞬時に息を吸い込んでヒッと喉が鳴った。

彼女の顔を見て、慊人が堰を切ったようにお腹を抱えて大声で嘲笑い始める。


「あはははは!ホントに?ねぇ、本当に言ってるの?ふふっ…あははは!傑作!予想外だよ…あははは!」


目尻に溜まった涙を拭いながら笑い続ける慊人を、ひまりは見つめ続ける事しかできなかった。


早く、早く否定しないといけないのに。
違うと言え、ただひとこと"違う"と…。


「ち…ちがッ」

「愛し合いたいの?あんな化け物と?化け物が?くくっ」


慊人は眉尻を下げ、目を細め、見下しながら抑えきれない笑いで喉を鳴らす。
口角を上げて着物の袖に隠れていた手がひまりへとゆっくり伸ばされた。


「い…ッッ」


ひまりの頭頂の髪を鷲掴みにして、再度顔を近付けた。
今度は鼻がつきそうなほどの至近距離で。
細められた瞳に宿る眼光に、目眩がするほどに血の気が引いた。


「ココまで馬鹿だとは思わなかったよ、このドブネズミ。僕の物をたぶらかすなって言ったの覚えてない?記憶する能力も欠落してるの?いつになったら自分の立場を理解するの?」


抑揚のない低い声、光が消えた瞳。
憎悪に満ちた顔に心がえぐられる。

それでも、肯定してしまえば夾にどんな仕打ちをされるか分からない。


「ちがう…違うよ…慊人…」



必死だった。


「違う…?とうとう僕に嘘までつくようになったの?傲慢な女。逆に尊敬するよ、その図々しさ。ねぇ、何勘違いしてるの?自分が"何"か分かってる?」


グッと握られた髪が引っ張られブチブチと髪が千切れる音がひまりの耳に届いた。


隠せない。
隠し通せない。
全て見透かされてる。
どうしよう、このままじゃ夾にも…



ジワリとひまりの目に滲んだ涙に、慊人は更に不快だと言わんばかりに眉間のシワを深く濃く刻んだ。
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