第8章 彼岸花
潑春は掴めたかもしれない手掛かりに心が昂った。
その表情は変えないが。
「リンに…会ってちゃんと話したい…リンならその答えをくれるかもしれないし…」
前の諦めたような言葉から、一歩踏み出そうとするひまりの言葉に今度は素直に微笑んだ。
「リンなら多分、また近々会えるんじゃない。きっとひまりの発作のことも気に掛けてるだろうし…あと、由希と夾が今晩ひまりを泊めてやってっ…て……?」
「膝…膝打った…っ」
動揺で何故か足を前に蹴り上げたひまりは、机で膝を強打した。
その動揺っぷりがどの言葉で引き出されたものなのか、だいたいの察しがついた潑春は「大丈夫?」と声は掛けたものの、聞くか聞かぬべきか…無表情のまま悩み始める。
だが意外にも話のキッカケを作ったのはひまりだった。
「由希と……夾も、いたの?ここに…」
膝をさすりながらまるで伺いを立てるように、恐る恐る言葉を紡ぎ出していた。
その姿に、やっぱり原因はそれかー…と思いながら「うんいたよ」と答える。
「そのー…夾…いつもと何か違うなぁーみたいな、感じとか、あったりしたり…した?」
「……いつも通りだったよ。由希も夾も、ひまりのこと、心配してた」
「そっ…か。謝っとかなきゃね…」
「…なんか、あった?」
話すか、話さないかの選択肢を彼女に委ねるために、抽象的な言葉で問う。
予想はしていたが…
「ううん、何もないよ大丈夫」
取り繕うように笑っていた。
"何もない"と潑春にとっては刃となる言葉と笑顔を作って。
「そう…。そうだ、布団持ってこないと」
「え、私ソファでいいよ?」
「…とり兄も一緒に寝るから、どっちみちいる」
首の骨をポキポキと鳴らす潑春の横で、え?なんで?え?と困惑しているひまりに、わずかに眉を寄せて不服そうな顔をした潑春が肩を竦める。
「由希と夾からの条件。ここに泊まるなら、とり兄も一緒に居させろって。まぁ、とり兄も今日は様子見てたいって言ってたし…2人が言わなくてもこうなってただろうけど」
子どものように拗ねた様子に、ひまりは自身の左耳を指差して「拗ねるな拗ねるな穴友!」と無垢な笑顔を向けた。
「それ、まぁまぁな下ネタって気付いてる?」
彼女の額を軽く小突いて部屋を出た。