第8章 彼岸花
発作の途中で見えた潑春の顔が、苦痛に満ちた表情をしていて。
なんとか大丈夫って伝えようにも手も声も思い通りにならなくて…。
春はどれ程怖かっただろうか…。
ひまりが飛び起きたことに、驚いたように目を丸くさせている潑春を申し訳なさそうにひまりは見つめていた。
その様子に、何かを察したはとりは立ち上がると「風呂に入りたいし一旦戻る」と部屋を出ていく。
そんなはとりに感謝しつつ、ひまりがベッドから潑春の隣に移動して「春ごめん」と言うよりも先に潑春が口を開いた。
「ごめんひまり、何も出来なくて…」
発作の合間に見たのと同じ苦しそうな表情をしている潑春に、ひまりは思い切り首を左右に振る。
「いや、なんで春が謝るの?むしろ謝るのはこっちだし!ビックリさせてほんとごめん!!」
頭を下げたひまりは、包帯が巻かれている彼の手に気付きゆっくりとその手に触れた。
「これ…どうしたの?」
発作を起こす前には無かったそれに、不安感が募る。
もしかして自分が倒れそうになったのを庇ってくれたりとかで怪我したんじゃないかと。
潑春は触れられた右手を目の前まで持ち上げてジッと包帯を見据える。
「…俺の右手に宿るアサシンが疼き始めたから…封印した…」
「おいおい急にどうした?」
まさかの答えに突っ込みを入れて「今はフザける雰囲気じゃないでしょ」とひまりはフフッと肩を震わせる。
そんなひまりに釣られて一瞬頬を緩めた潑春だったが、また悔いたように顔を歪めた。
「この手はひまりの発作落ち着いてから俺の不注意でぶつけただけ。でも…何も出来なかったのは事実。…無力だなって…思った」
「そんなことない!!」
ひまりは真剣な目で潑春を見据えていた。
心臓が握り潰されるように痛くて、息が苦しくて、体の自由が効かなくて…そんな中で声を掛けてくれる存在にどれだけ、救われるか…彼はきっと知らない。
「春が…春がいてくれた。私の名前、呼んでくれたことがどれだけ心強かったか…しらないでしょ」
発作中は苦しくて、怖くて……
暗闇の中で独り、苦しみにもがいているような孤独感で。
そんな時に名前を呼んで、視線を合わせてくれたから、暗闇から引きずり出してもらえた気がした。