第8章 彼岸花
——— みて!ひまり!こうやってね、丸を描いて…時計の数字の場所に十二支を当てはめてみて!
——— えっとー…子、丑、寅……こんな感じ?
——— ほら、ネズミと……が向いあってるでしょ?こういうのって、向かい干支って言うんだって……数えて7番目の干支が向かい干支なんだよ
——— ……ほんとだ!知らなかった!
——— ひまりが1番見える位置に……がいるんだよ……何があってもずっと味方でいるからね、いつもちゃんと見てるよひまりのこと…大事な仲間だよ…信じて…何があってもひまりのこと…
頭も体も瞼までもが重い。
「じゃあひまり……とま……てやって」
「俺も………だから……安心しろ」
「明日……迎えに……から」
うっすらと耳に届く会話。
うまく聞き取れなくて、またふわふわーっと意識が遠のいていく。
目を開けたいのに…
自分の物じゃないみたいに体が言うことを聞かなくて…
深く…
深く落ちていくような……
次に意識が戻った時には、それと同時に瞼を開くことができた。
意識がハッキリとしてきて感じた左耳の熱さと痛みに、ゆっくりとそこに触れようとしたときに視界いっぱいに映りこんだ潑春の顔にハッとして一気に目を開く。
「とり兄、ひまり起きた」
スッと視界から消えた潑春の姿を追うと、見覚えのあるくたびれた本を片手にソファにいるはとりと目が合う。
潑春の言葉に、口を閉じたまま不快そうに眉を潜めて立ち上がったはとりは、うわっ!はとり怒ってる!と心の中で怯んだひまりの額を持っていた本で叩いた。
「いっ…たーい…」
「どれだけ俺をこき使えば気が済むんだ。お前は」
腕を組み、低い声で言われ、発作を起こした事を思い出したひまりは「ごめんなさい…」と布団で顔を半分ほど隠して眉尻を下げて謝罪する。
シュンとした彼女の様子に眉間のシワを薄くしたはとりが「身体はどうだ?」とベッドに腰掛けた。
「何か体が筋肉痛みたいに…痛い…」
「だろうな。酷い発作で硬直まで出たらしいからな」
酷い発作…。
ひまりは何かを思い出したように飛び起きて潑春の姿を探した。