第8章 彼岸花
「何でアイツが…?」
「…俺が知りたい」
怪我をしていない方の手で頸を掻きながら深いため息を吐く。
「ひまり、夾にピアス貰ったんだって。修学旅行で買ったらしい。…その、修学旅行の話、してたら急に。俺には分からないから由希、何か分かる?」
由希は修学旅行中の記憶を辿る。
ボーッと何かを考えてるような素振りはあった。
でもそんな思い詰めるような…感じではなかったはず。
今日の学校でも普通だった…。
「"うそ"、"だからあの時"、"夾"、ひまりが発作起こす直前に言ったのはこの3つ。修学旅行で、何かあったのかと思ったけど…」
指折り数えながら潑春が由希に視線をやると、肩を竦めながら首を横に振って頭を抱えた。
「パズルのピースが増やされた気分だよ…」
「パズル?」
「いや…こっちの話。…とりあえず発作に関しては夾に聞いてみるしかないな」
頭を抱えていた手で頬杖をつくと「それで」と由希は話を切り替える。
「どうしてリンはあの部屋に?」
「あー…多分俺に会いに来た。由希達が修学旅行行ってるときにまた書庫漁りに行ったんだけど、リンと出会した」
「…?なんでリンが書庫に…?」
「…俺らと一緒。呪い解く方法探してる」
由希が手で支えていた顎を上げ、「ほんとに…?」と疑いながら問うと無表情のまま潑春は頷く。
「直球で聞いてみた。"ひまりの呪いって解く方法知ってる?"って。そしたら血相変えて掴みかかってきて"あたしの邪魔をするな!"って。まだ何か言おうとしてたけど、人が来る気配がして書庫から出て行ったから、今日はその続き言いに来たんじゃない」
「…やっぱりリン相手だと変身しないんだな。ひまり…」
「そこの因果関係を知りたかったけど、あの様子だとリンも分かってないっぽい。わざわざ俺と同じように書物漁りに来たんだし」
「じゃあ…振り出しに戻るって感じだな…」
肩を落とす由希に「そうでもない」と潑春は声を掛けて立ち上がった。
「俺らよりも情報持ってるリンが俺らと目的が一緒っていうのは有り難い。タイムリミットがある訳じゃないし、一歩進めただけで」
箒と塵取り借りてくる…と由希に背を向け歩いていく潑春の背を眺めながら、由希は不安感を拭い去ることが出来なかった。