第8章 彼岸花
事情を説明し、頭を抱えるはとりを連れてひまりの元へと急いでいた。
「あいつ、硬直まで出てたのか」
「多分…手首を曲げて不自然に握られてたから…」
「…久々に重い発作だったみたいだな」
ハァと深いため息を吐きながら足を動かすスピードを上げたはとりに由希は必死についていく。
'"重い"の言葉に表情を沈ませていると、はとりの後頭部に鼻をぶつけた。
急に立ち止まったはとりの前を鼻を押さえながら覗くと、潑春が腰辺りまでの戸棚の方を向いて立ち竦んでいた。
戸棚の上に置いてあったであろう花瓶が割れて床にはその破片が散らばっている。
そして握りしめている潑春の手から流れている血がその破片の上にポタポタと落ちて、破片の上を伝っていた。
「何やってんだお前は…」
はとりがまた大きなため息を吐いて「後でソレ診せに来い。由希はここを頼んだ」とまた足早に歩いて行った。
言葉を発さない潑春の元へと近寄り、腕を組んで片側の肩で壁にもたれかかった。
「…大丈夫か?手」
潑春が感情に任せて花瓶を素手で割ったのだろう。
ブラックになって暴れまくってないだけマシだな…と軽くため息を吐いて彼からの言葉を待つ。
「…ん。平気」
一旦落ち着くことが出来たのか、そう返事をしてから着ていたTシャツを脱ぐと血が垂れる手にグルグルと巻き、床に散らばる破片を拾い始める。
由希は特に言葉を返すことなく片付けの手伝いを始めると、潑春の動きが止まった。
「…なーんも…出来なかった」
「…ひまりのこと?」
「…うん」
潑春はその場に腰を下ろして力なく胡座をかく。
由希も同じように腰を下ろした。
「発作…出始めて、苦しそうで…死ぬんじゃないか…って思ったら頭真っ白」
オマケに、更に苦しめようとしてしまっていた。
——— やめろ。変身したら発作が酷くなる。苦しめたいのか、ひまりを。
あの時、ドアを開けた依鈴に開口一番に言われた言葉。
不安で、どうにかしたくて、ひまりを抱きしめようとしていた。
依鈴が来た驚きよりも、自身の無意識な行動の愚かさに驚いた。
あんなにも冷静さを欠いてしまうなんて。
「……ひまりはどうして発作を?」
「……夾」
潑春の口から出たその名前に、由希は目を見開いて僅かに眉を寄せた。