第8章 彼岸花
神様に…
慊人に見捨てられるような恐怖感に似ている。
似ているだけで何かが違うくて、もっとクリアな物のようだった。
ただ、この恐怖感は
それと比べられるようなものじゃない気がする。
失くすことがこんなにも怖いだなんて。
「ひまりお願い。こっち見て。大丈夫だから」
「……ッ」
夾に告白してた女の子に向けた拒絶を私にも向けられる日がくるの?
「ひまり、俺の目見て」
ソファに力なく座るひまりを支えながら話しかける。
やっぱり届かない声。
段々と荒く、早くなる彼女の呼吸に焦燥感に駆られる。
「きょ…う…っ」
夾の名を口にした途端に一気に症状が悪化していった。
なぜ夾…?と浮かんだ疑問は、急変したひまりの姿で消える。
首の筋が出るほどに息を吸い込み、声を漏らしながら呼吸を繰り返すひまりをどうにか落ち着けようと、頬を手で挟んで自分の方に向けて視線を合わせる。
目が合った瞬間、ハッとしたように一瞬目を見開いたが、すぐに苦しさで涙が溜まった瞳が細められ、鼻水もそのままで飲み込みきれない唾液が口元を伝っていた。
手のひらを上に向けて不自然に握られている拳で何かを伝えようと潑春の腕に触れるが、制御が出来ないのかその手は握られたままだった。
ヤバい
潑春は前のめりになっていくひまりを片手で支えたまま、スマホを握りはとりに連絡しようとしたが手が震えて床に落としてしまう。
ひまりを支えているから、カタン…と落ちたそれを拾えない。
彼女を置いてこの部屋を出ることも怖い。
抱き上げてはとりの所に連れていくことも出来ない。
身体を大きく上下させて空気を取り込むひまりに何もしてやれない。
このまま死ぬんじゃないか…?
死ぬ…?
ひまりが…?
ふとよぎったソレに全身に戦慄が走った。
初めて"本当に失くしてしまうかもしれない"恐怖感に思考を乗っ取られ、頭の中が真っ白で何もかもが停止した。
ただただ無意識に心の中で助けを求めていた。
誰か助けてくれ…と。
潑春がそう願い、ひまりを失くしたくない一心で発作に蝕まれる小さな体を無意識にを抱きしめようとしたのと同時に勢いよくドアが開いた。