第8章 彼岸花
「ファーストピアスは1ヶ月は外さないで。消毒は2、3日に1回、こうやって綿棒に染み込ませてホール周りに塗るだけでいいから。まぁ、俺の…自己流だから正しいかは知らないけど」
慣れた手つきで消毒をしていく潑春と、傷口に侵入した消毒液のツーンと刺すような痛みに耐えるひまり。
潑春服に濃いシワを付けながら余韻に耐えるひまりの手を、潑春が自身の手で覆って「はい、終わり」と離させる。
そろそろ縋られ続けると理性が持たない。と判断したからだった。
「うー…この痛いの1ヶ月も続くのー…病むわー」
「あー、あと、ある程度痛み落ち着いたらピアスを前後に動かさなきゃダメ…癒着する」
「なんですと!?!?!」
「ファイト…。俺も空けよっかなー…今から」
「今から!?ってかまだ空けるの!?」
潑春は左右の耳に3つずつのピアスがある。
まだ空けるのか。ってか今からやるのか。と焦るひまりを他所に引き出しから小包装されている穴が見える程の太い鋭利な針を取り出す。
それを見たひまりがギョッとして顔を歪ませた。
「え…なにそれ。さっき私にしてくれたマッチの箱みたいなのじゃないの…?」
「マッチの箱って…斬新な例え…。こっちのが穴が綺麗に空くし安定が早い」
スタンドミラーを自分の方にむけ自身の左耳に、ひまりにやった時と同じようにペンで印を付け出す潑春に「本当に今からやるんだ…」と驚きつつも彼の言った言葉が引っかかった。
「…待って。綺麗に空くならそっちのがいいじゃん」
「綺麗に空くけどピアッサーみたいに一瞬じゃないから痛い。オマケに開けてすぐにファーストピアスに入れ替えるから、それも痛い」
"痛い"の連発と言われたことを想像してゾッとしたひまりは、ピアッサーでよかった…と彼の判断に無言で頭を下げて感謝を表した。
そんなひまりを気にも止めず、ペリッと袋を開けた潑春は同じく引き出しから取り出していたコルクを耳の裏に当て、見てるだけで痛そうな針を耳の印に当てがうと無表情で躊躇なく押し進めていく。
ひまりは見ていられないが気になるようで、両手で目を覆いながらも指の隙間から潑春の耳に刺さっていくニードルを、まるで自分が痛いかのように顔を歪めて見続けていた。