第7章 ベール
「本田さん、欲しいものあるって言ってたけど見つかった?」
「はい!自分へのお土産でして、先程ダッシュで買って参りました!あとは、紙粘土を買えば完成まであと一歩です!」
頑張ります!と手に持った紙袋を握りしめて意気込む透に、紙粘土…?と由希は疑問に思ったがそれを問うことはしなかった。
「由希君はご自分へのお土産をお考えですか?」
「俺の…?うーん…特に欲しいものとかはなくて…。しいて挙げるなら…思い出…かな。ひまりとの思い出がたくさん出来たらなって」
「そ、それは…」
その言葉に何かを察した透がポッと顔を赤らめると、由希もそれに釣られるように微笑んだ。
口が固い透に打ち明けるのに抵抗は一切なかったが、それでも恋愛感情を他人に知られるというのは少しばかり恥ずかしいものだった。
「きっと…由希君にとってもひまりさんにとっても…素敵な思い出になるはずです。柔らかい光に包まれたような…そんなお土産に」
「うん、ありがとう。…そろそろ集合時間かな。行こうか」
歩み出す由希の背を、僅かに曇らせた表情で持っていた紙袋を胸にギュッと抱いたままの透が見ていたことに誰も気付かなかった。
修学旅行が終わり、3人は疲れた表情で荷物を抱えて帰宅した。
…と言っても荷物の大半はひまりがお土産として購入した物だった。
「ひまり、由希君、夾君おっかえりー。修学旅行どうだった?告白ラッシュだった?」
ニヤニヤしながら出迎える紫呉に、夾は眉根を寄せて舌打ちをすると手に持っていたお土産を玄関に置いて階段を上がっていく。
その途中で「一回洗濯回すから洗濯物出しててよー」というひまりの言葉に「お」と短い返事だけで振り返ることはなかった。
「あっれー夾君ご機嫌ななめー?」
「お前に揶揄われるのが嫌だったんだろ」
「あ!紫呉!これお土産買ってきたよー」
由希が肩を竦めるその横で、ひまりは荷物の中からお土産の箱を取り出し紫呉に手渡す。
「僕のことなんてよかったのにー」と言いつつ、どこか嬉しそうに受け取る紫呉に、ひまりも自然と顔を綻ばせた。
由希が荷物を片付ける為に自室に戻る階段を登っていくその後ろに、紫呉と雑談していたひまりも同じようについて行った。