第7章 ベール
理想の世界続けと願う 希望に満ちた日常で
声の限り叫んでも 戻らない時に嘆いて
目の前でキラキラと輝く四葉のクローバーをモチーフにしたシルバーのシンプルなデザインのピアスを見ていたら、ふと浮かんだ毎日のように聴いている歌の歌詞。
嘆く…。
何となくしっくりくるその言葉に更に疑問が浮かび上がった。
何に嘆いているのか。
…ひまりはこの感覚に身に覚えがあった。
以前にも一度感じた"心の嘆き"。
そういえばあの時は…
「考えごと?」
「あ…」
顔を覗き込んできた由希に思わず一歩後ろへと下がる。
由希と視線が合うと、小さく笑ってから「ごめんボーッとしてた」と棚に陳列してある"鹿サブレ"の箱を手に取った。
「見て見てー!鹿の形してる!紫呉ってこういうの好きかなー?甘いの食べれたっけ?春と紅葉は何がいいんだろー。お菓子でいいかなぁ?」
早口で喋るひまりはまるで"考えごと"の内容を追求させる隙を与えないようにしているようだった。
そんなひまりの思惑など全てお見通しの由希だったが、それを止めようとはしない。
ただ彼女の話に耳を傾けながら、未だに外で戯れるグループのメンバーへと視線を向ける。
「はとりと綾女にもいるよねーっ!ってなったら美音さんにもだし、後はかぐ…」
水が堰き止められたかのように言葉に詰まるひまりに、由希は視線を戻す。
ジッと見つめないと分からない程度に口を歪ませている彼女の顔を見て、既に慣れてしまった胸の痛みを感じる。
由希は大きなため息を吐いてしまいたいのを堪えて、取り繕うように笑っているひまりに答えるように微笑んだ。
言葉に詰まったことなど気づかないフリをした。
"混沌"としているんだ。
俺もひまりも。
全く同じ理由だったと気付いてしまった瞬間、一瞬目の前の景色が色を無くしたように見えた。
いつの間にか店へとやってきた夾達がお土産を物色し始めている。
当たり前のようにひまりの隣に来て「お前そんなに買ってどーすんの?」と彼女と会話を始める光景を見ているのが痛かった。
由希は嫉妬心を、握りしめた拳の中に隠して何事もなかったかのように透達と雑談を始めた。