第7章 ベール
「鹿デカこわっ!」
2日目の観光地は木々が生茂る公園内にたくさんの鹿がいる場所。
背の低いひまりは初めて間近で見る鹿の大きさに怯え、ありさの後ろに隠れていた。
「鹿さん可愛いですねー」
「ひまり、お前もセンベイあげてみろよー」
透から手渡された鹿専用のセンベイをありさが受け取ると、途端に群がってくる鹿達。
「無理!まって!センベイ持たないでありさぁぁあ!」とパニックになるひまりにありさはケラケラと笑っていた。
「違う!鹿さん待って!それ服!服だからぁあ!食べないでぇえ!?」
間違ってひまりの制服の裾をモソモソと食べ出す鹿に、ありさにしがみつきながら目尻に涙を浮かべて懇願している。
夾が呆れたようにシッシッと追い払ってくれたのだが、ひまりは彼のその行為に「だめだよ夾!」と叱責した。
「昔、白い鹿に神様が乗ってやってきたって伝えられてることから、鹿は神聖な動物なんだよ!誤って鹿を殺しちゃった人がその死骸と一緒に生き埋めにされたって言い伝えられてるんだから!鹿さん大事にして!!」
「……お前好きよな。そういうグロい系の話」
腕を組んで歪ませた顔の夾の隣で、透も困ったように笑っていた。
由希はそんなメンバーの姿を遠目に見ながら咲の言葉を思い出す。
——— 少し前から急に質が変わったわ…あまり心地の良い電波では…無いわね…
はたから見ていれば特に夾に変わった様子は見受けられない。
だからこそ更に困惑していた。
「なあ花島。キョンの体にこのセンベイ巻き付けたら面白そうじゃね?」
「あら…それは見ものね…SNSにあげたらバズりそうだわ…」
「お!いいねー!もち、全身に巻き付けんだよな?」
「もち、あたぼーよ…」
「オイコラ、ヤンキーと電波。何勝手に話進めてんだ。やらねーぞ俺は」
「危ないですよーうおちゃん、はなちゃん」
悪ノリを続けるありさと咲の前に、夾を守るようにして2人を宥める透。
ひまりはそれを見てありさ達と同じように笑っていたが、また寄ってきた鹿にヒッ!と怯えていた。
そんなひまりの元へと歩み寄った由希は、彼女の手を取り鹿のいない開けた場所へと連れて行く。
「大丈夫?ココにいても鹿が寄ってくるし…良かったらお土産屋さん見に行かない?」