第7章 ベール
「ふぁぁああわっしょーーーい!!!!」
意味不明な叫び声を上げて寝起きとは思えぬスピードで立ち上がるひまりに、由希達だけでなく周りにいた生徒たちからも注目を浴びていた。
「おい花島、…お前の電波のせいでひまりの頭おかしくなったんじゃねーの?」
「あら…心外ね…ありさ…。電波は人を陽気にするものじゃないわよ…」
「あ、あれは…陽気…なのでしょうか…?」
ポーカーフェイスな咲と眉尻を下げた透が、ありさの横に並ぶ。
ひまりは謎の雄叫び後、固まったまま由希と夾の顔へ交互に視線を送っていた。
「おはよう、ひまり」
「お…おは…よう…」
「オラッ!!ボケッとしてねぇで飯食いに行くぞ」
困ったように微笑む由希の横で夾がひまりの頭を小突いて食堂へと入っていく。
小突かれた頭をさすりながら、夾の背中に目を奪われている彼女の肩に由希が手を置いた。
「魚谷さんがココまで運んでくれたんだよ。お礼言っといで」
「そうだったの!?うおちゃんごめーん!!ありがとうー!!!」
「お前花島の電波受けたんに大丈夫なんかー?」
「え?!電波!?受けたの私!?」
いつから…なんだろう…。
由希はワイワイと雑談を始めるひまりの横顔をジッと見つめていた。
考え事をしているその隣に、音も立てずにやってきた咲に肩をビクッと跳ねさせると「どうしたの?」と首を傾げる。
「混沌と…しているわよ。貴方も…」
「…"も"?」
「ひまりと…草摩夾の電波も似たようなものを感じるわ…。けど…」
けど…の後に言葉を続けない咲に、由希は首を傾げたままだった。
咲は一度視線を落としてから、食堂の中にいる夾の背中を見据えると続きを口に出し始める。
「草摩夾の電波は…少し前から急に質が変わったわ…あまり心地の良い電波では…無いわね…」
「それってどういう…」
「さぁ…?私にも分からないわ…心を…読んでいる訳じゃないから…」
更に追求しようとした由希だったが、一本に編んだ長い髪を揺らしながらひまり達を追って食堂内へと歩み始めた咲の背を立ち竦んだまま見つめていた。
「どういう…ことなんだろう…」
由希の呟きは、ガヤガヤとした生徒達の雑音にかき消されたいった。