第2章 おかえり
出掛けたい場所とは火事があった、住んでいたアパート。
できれば1人で行きたい…。
「ちょっと私用があって…それに由希を迎えに行って、食材の買い物に付き合ってもらおうと思ってるから、お昼過ぎには帰るよ?」
紅葉が頬を膨らませて何かを言おうと口を開いた時、割って入ってきたのは綾女だった。
「素晴らしいことこの上ないねひまり!!由希を迎えに行き、共に買い物をする…ラブだね!ラブロマンスだね!まるで神父の前で愛を誓い合った夫婦のようじゃないか!」
なんか勘違いしてるけど、この流れに任せれば1人で出掛けられる気がする。
「ライバルのキョン吉がいない間に出掛けるべきだね!さぁひまり!ずずいと!今すぐ出て行きたまえ!」
「出て行きたまえってここはもうひまりの家だよあーやー」
腰に手を当てて玄関を指差す綾女に、紫呉がまた優しくツッコミをいれた。
この流れに任せて出掛けようと思ったひまりは紅葉に「ゴメンねすぐ帰るからね」と伝えると着替えをする為に自室へと向かった。
昨日買った、オーバーサイズの白いTシャツにデニムのショートパンツ。
このままだと大きめのTシャツで何も履いてないように見えるので、ショートパンツにTシャツを入れて野暮ったくならないように少し引き出した。
髪の毛も一纏めにして、無造作にお団子を作り首元を涼しくする。
ショルダーバッグに財布を入れて肩から掛けてから鏡で全身のチェックをすると部屋を出て玄関に向かった。
外に出ると日射しも強く、蝉の鳴き声が直接頭に響いてくるようで思わず顔を歪める。
そういえばお母さんが死んだ日もこんな日だった。
うだるような暑さに、頭上から降り注ぐ蝉時雨。
涼しさを求めて急ぎ足で家に帰ると、開きっぱなしになっていた玄関。
嫌な予感がした。
昔からこの"嫌な予感"はよく当たる。
脱いだ靴を雑に放り投げて部屋に入ると、息も絶え絶えに倒れていた母。
震える手で救急車を呼んだ。
母の視線は定まらず、娘であるひまりのことも分かっていないようで「ごめんなさい」と謝罪したあとに頭を撫でる。
そして「産まなきゃよかった」と残酷な言葉をのこしてそのまま息を引き取った。