第7章 ベール
早朝。
透とありさと咲は困ったように顔を見合わせている。
「ひまりさん…朝が苦手だったのですね…」
「苦手とか可愛いもんじゃねーだろ。起きろーひまりー」
「…よければ…電波で刺激、しましょうか?」
咲がスッ…と胸の前に出した手を、「生死彷徨わせる気かよヤメとけ」と顔を歪ませながらありさが止める。
一度目覚めたと思ったら今度は部屋の隅の壁に額を打ち付けて、崩れ落ちるように倒れたかと思えばスースーと規則的な呼吸をしながら安らかに二度寝を始めたひまり。
その姿に透達は困り果てていた。
「どうしましょう…夾君をお呼び出来ないでしょうか…?」
「いやいや、男子はこっち来れねーだろ。あたし等で何とかするしかねーよなー」
「そうね…ここはやっぱり私が…」
「辞めとけよ花島ァ」
横目でじっとり咲を睨みつけてから、ありさは「しゃーねーなー」と直立しているような体制で眠るひまりの横にしゃがんだ。
「透、花島、ちょっと手伝って。はよ行かな朝飯間に合わねーし、担いで行くわ」
「う、うおちゃん大丈夫ですか?!」
寝転んでいるひまりを3人がかりで起こし、ありさがまるで米俵を担ぐように持ち上げるとゆっくりと歩き始めた。
「意識のない人間は重たいって…マジなはなしだったんだな…」
フラフラと歩くありさを透と咲が支えながら何とか食堂へと続く廊下へと到着した。
そこにいた由希と夾が4人の異様な光景に、怪訝な顔をして近づいてきた。
「…まさかひまりその状態でまだ寝てるの…?」
「…凄いわよね…電波で刺激しても起きないんだもの…」
「お前、それやんなっつっただろー。とにかく王子、キョン!あたしもう限界だ。降ろすぞ」
由希と夾は担がれたひまりを抱きとめてしまわないように腕の力だけで支えながら、降ろす手助けをする。
ひまりを廊下に座らせると、ありさがウーンと体の凝りをほぐすように伸びをしながら「どうだー?起きそうかー?」と由希と夾に声をかけた。
「ひまりー。起きなよー?」
「おいコラひまり!起きろ!!」
ずっと下を向いたままだった長い睫毛は、夾の怒鳴り声に一気に目を見開いて上を向いた。