第7章 ベール
私は…夾が嫌い…?
いや、ない。
そんな訳…ない、よね?
ふぅーと息を吐き出し、ふと周りを見るとグループのメンバーが誰一人としていないことに気付いた。
「…やば」
はぐれてしまった…とお店を出てとりあえず目立ちそうなオレンジ色の髪を探すがやはり見当たらない。
そして凄い人混みに恐怖感を覚えていた。
とにかく…人のいない場所…。
何とか人混みを避け、見つけた人が来なさそうなお店の裏手に逃げ込む。
そこのベンチに探していたオレンジ色を見つけてひまりはパァっと顔が明るくなったが、夾の表情と見えていなかった隣に座る透の姿に上げていた口角を戻した。
透の表情は見えなかったが、夾は真っ白の綺麗な猫と戯れながらその頰を染めて隣に座る彼女を見ていた。
あぁ…そうだったんだ。
ひまりは2人の邪魔をしないように踵を返して来た道を戻った。
由希かありさか咲か…誰かいないかな…と考えながら歩いていたので目の前に迫る観光客に気がつかなかったのだ。
グイッと急に肩を捕まれ、驚きながら足を止めた。
顔を振り返させると肩で息をしながら眉根を寄せる想定外の人物の姿に、心臓が飛び出しそうになる。
「な、な…ッ。なんで夾…」
「お前何ボーッと歩いてんだよ。男にぶつかりでもしたらどーすんだ」
「え、いや…と、透君…は?」
敢えて2人の邪魔をしないようにあの場を離れたのに、何故ここに夾がいるのかと不思議でならなかった。
ひまりの質問にハーッとため息を吐いて掴んでいた肩を離す。
「お前の姿が見えたから追いかけてきたんだよ。アイツは何か買いてぇもんがあるんだって土産屋に行ったぞ」
「そ、そうなんだ…」
「何か買いに行きてぇのか?」
「ううん。由希達とはぐれちゃったから…探してて」
まともに夾の顔を見れずにいると、パッと手を握られた。
驚いたように夾の顔を見上げると「またボーッとして変身でもされたら堪らねぇからな」と呟きそのまま引っ張って歩き出す。
「さっきんとこ人来ねぇし、あそこで時間潰すか」
「あー、うん」
うまく頭が回らなかった。
ただ繋がれた手に体の全ての神経が集中しているような錯覚に、そこから目を離すことが出来なかった。