第7章 ベール
嫌悪感すら感じられるその表情に、見ていたひまりはビクッと肩を揺らす。
「アンタうざい…。何勝手に願望なんか抱いてんだ。…俺なんかに」
鋭い目と抑揚のない声に、告白をしていた女子生徒は僅かに目尻に涙を溜め、凍りついたように目を見開いたままだった。
「キョンの馬鹿ぁぁああっ!!」
「うぉっ!?」
その張り詰めた雰囲気を壊すように、影から見ていたクラスの男子2人が飛び出し夾を押してその女子から遠ざけた。
ひまりとありさがその後からゆっくりと姿を表すと、尻餅をついたまま更に夾は驚いたように顔を歪ませた。
「な、なんでいるんだ、お前ら…」
「女の子にはもっと優しくしなきゃだめでしょーが!めっ!!」
「そーよそーよ!優しくしなくちゃ男じゃないわよぉ!めんめ!!」
「あのなぁ…気のねぇ女に優しくしてどーすんだよ!?」
「そんなんじゃモテないわよ!キョン!」
「なんでおネェ言葉なんだよお前ら」
ギャーギャー騒いでいる彼等を、あははーと引きつった顔で見ていたひまりは一緒についてきていたはずの咲の姿がない事に気付き、その場を少し離れて探していた。
「ちょっと!」
真後ろから声を掛けられ振り返る。
そこにはさっき夾に告白していた女の子が眉根を寄せて立っていた。
「超ムカつく…邪魔しに来るなんてサイテーっ…」
潤んでいる目を充血させた彼女を見てひまりは胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
この子の前から、今すぐに逃げ出したくなるような…そんな感覚。
「そう…だね、ごめん…」
「あんた…夾のこと好きなんでしょ」
「え…、そりゃまぁ…す…?」
言葉を詰まらせたひまりに片目を細めて次の言葉をジッと待つが、話し出さないひまりに苛立ったようにため息を吐く。
「意味わかんない。なにアンタ…ほんとやってらんない」
通り過ぎ様に睨みながらの言葉にも、ひまりの反応は無く固まったままだった。
どうして私…即答できなかったの…?
他のみんなの事ならきっと即答できた。
なのにどうして…
私…夾を好きじゃないの…?
地面に落ちている、半分ほどが赤く染まった紅葉の葉を見つめながら立ち竦んでいた。