第7章 ベール
「ってーかさぁ、おかしいと思わん?」
同じようにカップルの姿を眺めていたありさが不思議そうに首を傾げながらひまりと透を見る。
「おかしいって何が?」
「そんな告白ラッシュなのに王子はなーんで暇こいてんだ?」
ひまりと透はポカンとしている由希を見て"確かに…"と納得したように顔を見合わせた。
ファンクラブまで出来ている"学園の王子様"が呼び出しもされず、のうのうと観光していることは確かに不思議でしかない。
今頃引っ張りダコなハズなのに…と、ありさと同じように2人も首を傾げていた。
実は同学年のファンクラブのメンバーが陰ながら由希を見守っているから…という理由であったことはこの先、誰も二度と知ることはなかったが、実は彼女達の努力の賜物であったということはここに記しておく。
「いや…モテるなら夾の方だよ。今も呼び出しもらったみたいだしね」
由希の言葉にひまり達が周りを見回すと、確かにさっきまでココにいた夾の姿が無かった。
途端にありさは面白そうなネタが出来たと言わんばかりに口角を上げてニヤリと笑いひまりの腕を掴んだ。
由希と透を置いたまま、咲とクラスの男子2人もその楽しそうなネタに食いつき、告白されているであろう夾の姿を探しに行ったのだった。
「なんでどうしてぇ?!夾のことずっと好きだったんだよ!1年の時からずぅーっとだよ!?」
「だぁかぁらぁ…俺はアンタを好きでも何でもねぇし、名前すら知らねぇっつってんだろ」
建物の影に隠れながら、ひまり達は夾が告白されている現場を見学していた。
「うぉー。やってるやってる」
「キョンの奴あからさまに嫌そうな顔してね?」
「カナリ塩対応…。告白って勇気がいるもんでしょ?ちょっと相手の子が可哀想な気が…」
ありさ、クラスの男子、ひまり、と次々と話しながらその行く末を見守っていた。
夾は眉間にシワを寄せて明らかに面倒そうな表情をしており、さすがにひまりはその状況に、相手の女の子に同情していた。
「付き合ってけば好きになるかもだし!名前も今から覚えればいいでしょう?イイじゃん付き合おうよー!」
相手の女子生徒が夾の腕を掴んだ瞬間、夾は完全に拒絶した顔でその手を躊躇なく払い除けたのだった。