第7章 ベール
——— 俺はそれに抗いたいから…そうじゃねえって。そんなん決めつけんなって…。勝たなきゃなんねーんだ。勝たなきゃ…
怖くない訳がない。
苦痛に満ちた夾の表情を思い出し、ひまりは体を起こして真逆な表情をする彼を見る。
「どした?なんか飲むか?」
「あ……うん…」
夾は幽閉怖いって思う?の言葉をひまりは飲み込んだ。
言えない。
聞けない。
「ほら。飲んだら寝ろよ」
「ねぇ夾…音楽、かけて」
「あ?これか?」
ひまりの指差した方向にあったプレーヤーの再生ボタンを押すと、音楽のイントロが流れ始める。
「利津から貰ったやつか?」
「うん。好きなのその歌」
ペットボトルの蓋を閉めてローテーブルに置こうとベッドから立ち上がった瞬間に軽い目眩が起きたひまりは、バランスを崩した。
「ばかっ!あぶね…っ」
このままだとひまりが頭をぶつけてしまう、と夾は抱きとめようと手を出していた
ガンッ
はずだった。
「いっ……」
「だ、大丈夫か!?…悪い…」
机に額を打ったひまりが目を閉じ眉を顰めて額を両手で押さえながら、夾への違和感を感じていた。
今、手…引っ込めた…?
「デコ見せろ…あー…赤くなってんな」
自身の前髪をそっとかきあげ心配そうに顔を歪める夾に、気のせいか…。とひまりはそれ以上考えないようにした。
ジンジンと痛む額の痛みと、打ったことによって再び引き起こされた頭痛のダブルパンチに耐えながら彼の手を借りてゆっくり立ち上がる。
「大丈夫ー…ビックリさせてごめん」
「…とりあえず寝とけ。冷やすもん持ってくるから」
ベッドで横になったひまりに布団を掛けると部屋を出て行こうとする夾に、彼女は無意識に彼の制服の裾を掴んでいた。
グイッと引っ張られたそれに夾は振り返って、不思議そうにひまりの顔を見下ろす。
「あー…いい。夾の手で」
「……なんだそれ」
夾は戸惑ったように頬を掻きながら再度椅子に腰掛けた。
自身の体温よりも高く、そして赤くなった額を隠すように手の平を乗せてやると、気持ちよさそうに目を閉じるひまり。
その時、プレーヤーから流れる声はラストのフレーズを歌っていた。
まるで思い知らせるように。