第7章 ベール
小さな子を宥めるような紫呉の態度に戸惑いつつも「いや、でも晩ご飯…」と口を開いた所で手を握られ、強制的に踵を返させられる。
「無理すると修学旅行行けなくなっちゃうよー?修学旅行と言えば恋愛イベントてんこ盛りだからね!」
「いや…別にそれ求めてる訳じゃ…」
「えー面白くないなぁー」
口を尖らせながらも、何処か楽しげな紫呉に連れられて部屋の前に着いた。
ドアを開けて「どうぞ」と珍しく紳士的な態度の彼に頰が緩む。
「ありがとう」
「君が今やるべきことはよく寝て早く治すこと。飲むもの持ってくるから寝てるんだよ」
閉まったドアに向かってもう一度お礼を述べてから、飲み物を待つためにベッドに腰掛けた。
今日はもう出前でも取ってもらうかー…とあまり働かない頭で考えながらなんとなく棚の上に視線をやる。
さっき30分くらいしか寝てなかったんだ…と部屋の時計をボーッと見つめていると階段を上がってくる足音。
部屋に入ってきた紫呉の手にはコンビニの袋が持たれていて、その中から経口補水液やジュース、プリンやゼリーを次々とテーブルの上に置いていった。
「…買ってきて、くれたの?」
「さっきはーさんが来てたときにちょっと外出しててね。どれがいい?何か食べれそう?」
はとりが座っていた椅子に腰掛けた紫呉から、蓋を開けてくれた経口補水液を受け取ると、一口飲んでからひまりは首を横に振る。
「折角だけど…ごめん、食欲なくて…」
「それだけひまりの体が治すことに集中している証拠ですよ。はい、じゃあ飲んだら横になろうね」
ペットボトル以外の物を袋に片付けると、横になったひまりに布団を掛けてやる。
そして椅子に座ったまま腕を組むように、着物の袖の中に手を隠すと横になった彼女の顔をジッと見つめた。
「僕さ、気になることがあるんだけど?」
「…気になること?」
「どうして君は…まだ夾君に打ち明けてないんだい?由希君はもう知ってるんだろう?」
主語が無かったが、何のことだかひまりはすぐに理解した。
そしてその表情を僅かに曇らせて「それは…」と言葉を詰まらせる。
「…必ずしも自分の思い通りの結果になる保証が無いから?」
紫呉はほんと痛いところをついてくる上に、嫌な言い方するなぁ…と、ひまりは目を伏せた。