第7章 ベール
朝の忙しなさと違って、ゆったりと時間の進みが緩やかになる昼下がり。
ある一室ではゆったりという言葉とは大きくかけ離れた、切羽詰まった雰囲気を醸し出していた。
「はぁ…っ。はぁー…っ。はと、…り」
「なんだ」
潤んだ瞳に火照る顔と体。
ひまりは体の芯からジンジンと燃えるような熱気から逃れようにも、自分自身ではどうする事も出来なかった。
汗ばむ額には前髪が張り付いている。
見下すようにその様子を見ているはとりに、ベッドの中からひまりは震える手で懇願するように彼のスーツの袖を握りしめた。
「おね、っがい…はとり…っ…この熱…はぁっ…何とかして…っ」
「既にしてやっただろ。後は自分で何とかしろ」
「無理っ…もっと…。もっと…っ」
辛そうに眉を潜めるひまりに、はとりはため息を吐くとベッドに座る彼女の両肩を持ってそのままベッドへと優しく沈ませる。
だが、その優しさとは裏腹に次にはとりから紡ぎ出される言葉はひまりを奈落の底へと叩き落とすのだった。
「お前は薬物中毒にでもなるつもりか。それにお前のような馬鹿にこれ以上やる薬はもうない。寝ろ」
「鬼ぃー…」
「そもそも高校生にもなって雨ではしゃぐな」
「鬼医者ぁ…」
そう、それは昨日の話。
ひまり、由希、夾、潑春、紅葉で学校帰りに修学旅行で必要な物を買いについて来てもらったあと、ゲリラ豪雨に遭遇したのだ。
バケツをひっくり返したような大雨にテンションが上がったひまりと紅葉は荷物を近くのコンビニで雨宿りしている由希達に託し、びしょ濡れになってはしゃぎ倒した。
それはそれは子どもの頃に戻ったように走り回り、水溜りでジャンプしたり、呆れ顔で見る由希と夾との温度差など気にせず散々楽しんだ。
その結果、修学旅行3日前に高熱を出すと言う失態に繋がり、はとりは心底不機嫌そうな顔で紫呉の家まで足を運んだと言う訳だった。
因みに同じくずぶ濡れになった紅葉はピンピンとしていて、今日も学校に行っているとのこと。
「なんで紅葉は元気なのよー…」
「お前は食が細すぎる。もっと食べて体力をつけろ」
「3日後から修学旅行なんだよー…助けてよー…」
「知らん。自業自得だろ」
腕と足を組んでベッドの横に置いた椅子に座るはとりにピシャリと言い放たれた。