第7章 ベール
夾はあの頃よりも小さく感じるひまりの手を覆うように置き直した。
想像も出来なかった。
自分の片手だけで彼女の手を簡単に覆うことが出来るだなんて。
「あん時もどこにも行かないつって。ガタガタ震えてたくせに。…頑固なんだよ。お前」
「いやだって…時間経てば戻るなんて知らなかったし…あの姿に精神まで取り込まれてもう夾に会えないって思ったんだもん」
不貞腐れたように口を尖らせてひまりはそっぽを向いた。
「もしも…それ知ってたら…逃げてたか?」
弱ったような態度でこんな質問をするのは狡い。
けど口から出てしまったそれ。
逃げないよ。って答えるしかない雰囲気。
それでもよかった。
けどひまりからの言葉はその上を行く答えで
「は?戻るって分かってんのに何で逃げるの。あんな不安な目した夾ひとりにしないよ」
夾は当たり前かのように答えた事は素直に嬉しかったが、それと同時に狡い質問をした自分自身が恥ずかしくなった。
こんな密室で、男に手押さえられて壁に張り付けられたのに。
そんなこともう忘れているひまりの目からは恐怖の色は綺麗さっぱり消えている。
少しくらいは男として意識してくれても…と心の奥底に湧いた欲を掻き消すようにひまりから離した手で目を覆って天井を仰いだ。
本当にどんどん欲深くなっていく。
「あー…お前俺に隠し事してんだろ」
目を覆っていた手を上に上げて見下ろすようにひまりに問うと、分かりやすく焦っている彼女に眉を潜める。
あまり深刻さを感じられない雰囲気に、やっぱ言う気ねぇな。と理解しつつも彼女の言葉を黙って待った。
「えっとー…実はタイマンではなく…3対1でしたっ…てへっ」
人差し指で頬を掻きながら戯けるひまりに、夾は自然と「あ??」と低い声を出していた。
「いや!でも違う!ボコスカやってない!ダァン!ってしてパァンッてされたみたいな!ね!両成敗!ってか由希にもう怒られたから!」
「…反省はしてねぇんだろ。…お前明日から学校で俺と別行動禁止な」
「は?!やだ無理!監視されてるのとか無理!」
多分、俺は。
呪いを解く方法が無くて、ひまりの幽閉を止められないなら。
…殺してでも阻止してしまうと思う。
そんなドス黒い感情が芽生えていた。