第7章 ベール
軽く理性が飛んでいた。
いや、変身しないように配慮していた分、最低限のものはあったんだ…とは思う。
少しずつ歯止めが効かなくなっていってることに恐怖感すら覚えた。
ひまりは怯えた目をしていたのに。
"俺の"タイムリミットはもう、すぐそこまで来てる。
あと1年半も無い。
でも、もしもひまりのタイムリミットがそれよりも短かったら…?
低い可能性でもあり得る現実に、感情が暴走していた。
いつか抑えられなくなったそれが吐露してしまいそうで怖い。
時間があれば、まだ希望はある。
だがひまりに聞こうにも、俺は何も本人から聞いていないから問い詰めることも出来ない。
彼女から話してくれた事以外は知らぬふりをしようと決めていた。
何か理由があるからこそ、話さないのだと。
……いや、本当は怖かったから。
ひまりにとって俺が不必要だと言われているようで。
秘密を打ち明けるほどの仲じゃない、っていう現実を突きつけられているような気がして。
知らないことにすれば、無かったことにすれば…。
「悪い…驚かせて。もうお前、部屋戻れ」
理性を保つ為の精一杯の拒絶だった。
それなのにコイツときたら…
「…戻らない」
「…戻れって」
「やだ」
「さっきの事覚えてねーのかよ!?怖かったんだろ!?」
怖がってたクセに。
声を荒げる俺にビクッと肩を震わせる。
ほら…やっぱり…。
「…怖かった。怖かったけど…放っておけない。今の苦しそうな夾をひとりにさせたくない。ひとりにさせるくらいなら一緒に苦しみたい。っていう私の自分勝手なワガママだから。だからまだ戻らない」
目の奥に恐怖の色を残しながらも、頑固な彼女はその意思を絶対に曲げないと大きな瞳で物語っている。
俺の手の上に小さな手を乗せてギュッと握った。
…あぁ。そうか。
そうだった。
そんなことも、あったな。
「…お前の…その台詞を聞くのは…二回目だな」
ガキの頃はむしろひまりの方が大きかった手。
その手を見つめて頰の筋肉が緩んでしまったのが自分でもわかった。
俺の言葉にキョトンとするひまりは、ガキの頃に俺に見せた顔と変わっていなかった。