第7章 ベール
鋭い目つきに僅かに芽生える恐怖感。
だがそれからひまりは目を逸らすことが出来なかった。
怒りよりも、悲痛の色が濃い気がして。
「い…言うことっ…て?」
いつもよりも小さな声で聞くが夾は瞬きすることもなく声を発することもなく詰め寄ってくる。
ひまりには"俺に言うこと"の意味が分からなかった。
実はタイマンではなく3対1だったことを知ってるんだろうか?
それにしても、いつもと雰囲気が違いすぎる。
「ねぇ、夾、ちょっと…待って…」
背後には壁。
最大限まで背中を押しつけた。
それでも近寄ることを辞めない夾の胸を手で押し返そうとしたが、彼の両手に手首を取られて壁に縫い付けられてしまう。
その力が余りにも強くて、ヒュッと吸い込んだ空気が喉を鳴らす。
逸らすことの出来ない夾の瞳を見つめながら、激しく暴れる心臓に眉根を寄せた。
「言えよ…なんで……なんでっ!!」
何でコイツなんだ?
夾は予想もしていなかった。
自分以外に幽閉される人間がいること。
それがひまりだってこと。
——— ひまりの存在を慊人が知ったときに決めたそうなんだ。ひまりは先代の猫憑きと同じ運命を辿らせる…と。草摩の秘密のひとつだから口外してはいけないよ。
藉真が言っていた言葉。
その他にも幽閉の時期は詳しくはわからない事や、その事はひまりも受け入れてる事などを教えてくれたが、気が動転していたからかあまり話した内容を思い出せなかった。
家までの道もどう帰ってきたかすら覚えていない。
やっと落ち着いたのは、ラップのかかった何の味も感じない晩ご飯を食べた辺りだった。
先代の猫憑きと同じなら、幽閉はすぐではない。
せめてひまりだけでも運命を変えられないだろうか。やはり呪いを解くしかないのだろうか。
そんな事を考えていたときにひまりが訪ねてきた。
心に生まれた蠢きはそう簡単には落ち着いてはくれなかったらしい。
幽閉までのタイムリミット。
ひまりにはそんなもの無いと思っていたのに突如告げられた真実。
そして呪いを解くという途方もない希望。
それはあまりにも…
「残酷だ……あまりにも…」