第7章 ベール
「あっ…」
道場からの帰り道。
夾は何となく違和感を覚えた。
いつもよりも軽い自分の手を見て、道場着をいれた袋を持っていないことに、あぁこれのことか…とその違和感に納得する。
忘れた物を取りに行くべく、踵を返して来た道を戻った。
道場の玄関を開けるとそこに投げ出されたように置かれているスクールバッグ。
ここを出る時にはなかったそれに首を傾げながら靴を脱いで中に入る。
「ひまりの呪いで知ってること全部教えて」
奥の部屋から久しぶりに聞いたその声が誰のものなのか、すぐに分かった。
つい最近、関わりたくないと思っていた由希から話題に上がった人物。
ひまりの呪いを解く鍵になるかもしれない彼女が居る。
夾はバッと足早にその部屋へ向かうが、彼女の発した言葉を思い出し足を止めた。
いま…ひまりの呪いっつったか…?
全部教えて…?
一体誰と話して…
見つからないように足音を抑えながら部屋の中を少しだけ覗き見た。
そこで夾は目を見開いて息を呑んだ。
「師匠…?」
土足で立つ長い黒髪の依鈴と藉真の姿。
「どうしたんだい?急に」
「あの子の呪い、解けてなかった」
何故藉真がひまりの呪いのことを知っているのか。
予想外のことに夾の思考は追いつかないが、それでも部屋の中の2人の会話は続く。
「…そうだね。解けてないよ。十二支の縛りからも解放されてない」
「なんで…どうして!?それじゃあ…それじゃああの子の幽閉の未来は変わらないだろ!?」
ギシッ
「!?」
「アイツの幽閉って…なんだよ…」
僅かに震える手を握りしめて夾が姿を現すと、驚いたように目を見開く藉真と依鈴。
依鈴は軽く舌打ちをして部屋から出て行く。
夾が怒鳴って呼び止めるがその足を止めることはなく、追いかけようとした時に肩を掴まれて静止させられた。
「待ちなさい夾」
「…っ。どういうことか説明しろよ師匠!ひまりの幽閉って何なんだよ!!」
「あの子が物の怪憑きだってことは…知ってるんだね」
苦悶の表情をしている藉真に夾は噛み付くような視線を向けている。
藉真はひとつ息を吐き出すと、腹を決めたように部屋の中に夾を招き入れた。