第7章 ベール
「ごめん…それと、ありがとう」
由希からの謝罪もお礼も身に覚えがないひまりは「ん?なにが?」と目を丸くする。
「これ、俺のせいだし」
温くなったハンカチを離すとまだ赤みがひかない頬に由希は眉を潜めた。
「あぁ…」と由希の謝罪の意味がわかったひまりは「違う違う」と笑う。
「これは私が悪いよ。先輩たち煽っちゃったから仕方ない。先に壁蹴って驚かせちゃったの私だし」
「…だからって手を出して良い訳じゃないと思うけど。あと…俺の為に怒ってくれてありがとう」
お礼を言われたひまりはピシリと固まると、ギギギと音が聞こえそうな鈍い動きで両手で顔を覆って下を向いた。
「何処から…聞いてたの…?」
「え?最初から…居たけど…」
「待って、もの凄く恥ずかしいんだけど」
相当恥ずかしいのか髪の隙間から見えている耳までもが真っ赤になっている。
由希は何処に恥ずかしさがあったのか理解出来ずに温くなったハンカチを握りしめたまま首を傾げていた。
「…なに、身内愛を他人に話していたら本人が聞いてましたーって展開…。しかも由希は私のこと大事だとか堂々と…言って…たんですが…。待って無理。恥ずかしい。調子乗った忘れてマジで。翔今すぐ地面に穴掘って」
肩を縮こませて小さくなるひまりに「掘れねーよ」とツッコミながら笑い出す翔。
由希はクスッと笑うとひまりの両手首を掴んで顔から手を剥がし、揶揄うように口角を上げて彼女の顔を覗き込む。
「間違ってないよ?幼い頃からの仲だし、俺にとってひまりは大事な子だよ?」
「……敢えて私の言葉を文字ってくるところと、その表情に悪意を感じる」
真っ赤にさせた顔で由希の顔を睨みつけた。
いつも通りならごめんごめんっと言ってこの話は終わるはず…とひまりは思っていた。
だが、由希の挑戦的な目と上がった口角が戻る事はない。
その様子に怯んだひまりは掴まれた手首を僅かに動かして「離してよ」と訴えたがやっぱり彼の態度は変わらなかった。
「離さないよ?俺、怒ってるし」
ひまりは真っ赤にしていた顔からサーッと色が失われていくのが分かるほど、一気に熱が冷めていった。