第7章 ベール
「もー帰ろーぜーリーダー」
生徒会室で椅子に座り、机に足を乗せている翔が気怠そうに頭の後ろで手を組んでいた。
「机に足乗せるなって。さっき公達と一緒に帰れば良かっただろ」
「えぇー…翔ぅ、ゆんゆんとぉ一緒に帰りたくてぇ待ってるんだよぉ?」
「公の真似をするな。気色の悪い」
顎の下で握り拳をつくり首を傾げさせて、猫撫で声で公の真似をする翔を由希は鬱陶しそうに睨みつける。
そしてハァ…とひとつため息を吐いて、口煩い目の前の人物にこれ以上文句を言われないように出していた書類を片付け始めた時、翔が窓の外を凝視し始めた。
由希も同じように目線を向けると、そこには校門とは逆方向の体育館へと続く道を歩いていくひまりの姿。
「あっれー?ひまりじゃね?帰らねーのかな?あっち体育館だけど…あ、もしかして告白のお呼び出し!?」
「いや…もしかしたら…」
中庭での出来事に懸念を抱いていた由希は、嫌な予感がして立ち上がると生徒会室を出て行く。
お!おもしろそーじゃんっ!と翔もワクワクとした表情でその後を追った。
体育館の壁沿いをあるいていた彼女が角でクルッと曲がる。
その先は体育館の裏。
由希と共にコソコソとその後をついていっていた翔が「やっぱ告白じゃねーのーゆんゆんどうするー?」と揶揄う。
そんな翔を睨みつけ小声で「静かにしろよ」と黙らせ、やっぱり嫌な予感当たってるんじゃないか…?と由希の不安感は募るばかりだった。
「ちょっと先輩待たせるとかアンタなめてんの?」
ひまりの声とは違う、苛立ったような女の声に「やっぱり…」と由希は顔を顰めて角から少しだけ顔を出し様子を伺う。
しゃがんだ翔が由希の下で同じように顔を出し「3対1かー。あれゆんゆんファンの3年じゃん」と助けに行くつもりの由希を手で止めた。
「こらこらゆんゆん。女の揉め事に男は厳禁よぉ?それにアレ、ゆんゆんが原因でしょ」
「だったら尚更…ッ」
「あのねー。原因はゆんゆんでもあれはひまりの問題でしょ。なに?ゆんゆんは24時間ひまりについててやれんの?違うでしょ。ひまりが解決しなきゃなんねー事じゃねぇの?」
「それは…」
その時ひまりの胸ぐらが掴まれ、次々に罵声を浴びせ始める女達に由希は眉間の皺を更に濃くしていた。